次世代のインフラとして期待されるスマートグリッド――。

 ITや蓄電池の技術を活用し、電力の需給を最適化し、二酸化炭素の削減など環境面にも貢献するシステムである。 

 具体的にはこうだ。まずは各家庭や商業施設の電力利用の偏在を分析したり、天気予報などを取り入れて電力の利用動向を把握する。そのうえで料金の安い深夜時間帯を使い、あるいはソーラーパネルなどを通じて電力を利用する。

 電力需給の時間的なずれを蓄電池の技術で解決するという仕組みだ。

 このスマートグリッド分野に勝機を見いだしているのが自動車メーカーだ。日産自動車や三菱自動車など電気自動車を発売するメーカーは、スマートグリッドの実証実験をすでに始めている。トヨタも9月末から青森県六ヶ所村で実証実験を開始し、10月には住宅とクルマのエネルギー消費を統合的にコントロールする「トヨタスマートセンター」として発表した。

 トヨタはこれによって、通常のガソリンエンジンの自動車と家庭の組み合わせに比べ、二酸化炭素の排出量を年間75%削減できるとしている。

 なぜ、自動車メーカーはこぞってスマートグリッドに参入しようとしているのか。

 トヨタによると、プラグインハイブリッドの充電により家庭の電力消費量は1.5倍になるという。電気自動車の充電も同様に家庭の電力消費量を増大させるだろう。自動車会社がスマートグリッドに力を入れるのは、こうした電力消費増大への対策という、いわば社会的責任の側面もある。

 もちろん、ビジネスチャンスという面も大きい。スマートグリッドの時代には、家とクルマの“相性”がいいのだ。

 現状では、自動車を販売した後、次の買い替えまでのあいだは収益源はそう多くない。車検やアフターサービスなどに限られる。しかし、スマートグリッド分野では新たな収益源が眠っていそうだ。

 例えば、各社の実験では、外出先からもスーマトフォンやカーナビゲーションから、家庭やクルマの充電状況の確認や、遠隔操作が可能となっている。

 また、プラグインハイブリッドや電気自動車に搭載される電池の容量は大きく、第二の家庭用蓄電池としても期待されている。夜間電力や太陽光発電による電力をクルマの電池に蓄え、家庭側に電力が不足した時に利用しようというわけだ。

 さらには、これらをきっかけに環境対応住宅の販売、月額の利用料を徴収できるモデルの構築にもつながりうる。

 特にトヨタの場合、グループ内にトヨタホームを抱えていることが参入の大きな動機になっている。他の自動車メーカーも住宅メーカーとの協業を模索しているが、グループ内に抱えるトヨタは連携という面で優位に立つ。

 事実、トヨタは10月に、住宅の生産と技術開発部門をトヨタホームに統合した。いわば、製販統合だ。

 今のところ日本の住宅市場では存在感を発揮できていないトヨタホームだが、今回の製販統合とスマートグリッド本格投入で起死回生を狙う。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)

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