平日は都会で働き、週末は田舎で過ごす。東京生まれ、会社勤め、共働き、こども3人。およそフットワークが軽いとは言えない一家が夢見る「二地域居住」。彼らは運命の土地に出合えるのか?愛と涙の土地探し奮闘記。今、田舎暮らしの新しいバイブルとして話題の『週末は田舎暮らし』から、一部を抜粋して紹介する。

◆これまでのあらすじ◆
東京生まれ、会社勤め、共働き、こども3人。「田舎素人」だが、「二地域居住」に憧れる一家。夢の田舎暮らしを始めるために、彼らはいよいよ物件探しを始めることに。だが、慣れない土地での物件探しは想像以上に難航する……。

不動産巡りの日々

 実際はそこからが、長い長い道のりでした。わたしたちは一体、いくつの物件を見たことでしょう。週末という週末を使って、ちょっとでも気になる物件はすべて確認しに行きました。たくさんの不動産屋さんに会いました。

 暑くなり、寒くなり、また春が来て、こんなことに時間を使わずにさっさと決めてしまいたいと、いい加減うんざりしてきても、土地を見れば見るほど、話を聞けば聞くほど、交渉を重ねれば重ねるほど、自分の選球眼が磨かれていき、妥協できなくなるのです。

 例えば、最初に出会った土地は、当時は「わあ!これで決めちゃっていいじゃないか!」と思うようなものでした。神奈川県の渋沢という場所にある、高台の東向きの細長い平坦地で、313坪900万円。眺望日当たり良好。小さな小屋を建てても広い前庭がとれますし、ひなびた風景もイメージに近いし価格も現実的。あるんだなあ!本当にこうしてのどかに遊んでいる良い土地があるんだなあ!と、気分が一気に明るくなりました。

 春の日差しが草にキラキラと当たり、家族でここでごろ寝したらさぞや気持ちがよかろうとウットリしました。これがご縁というものかと。ネットでの物件探しに疲弊していたこともあり、もう、いいじゃんここで、と思ってしまいそうになったのですが、土地を歩きまわりながら不動産屋さんのセールストークを聞いているうちに、わたしはどんどん冷静になっていきました。幸か不幸か、彼には何とも妙な口癖があったのです。

 その口癖とは「うまいこと言うじゃないですけどね」。これを会話の中で連呼するのです。

「この坪数の物件って、ご存知と思いますけど、そんなには出ないんですよ。うまいこと言うじゃないですけどね、これだけの広さでこの値段は、わたしも不動産屋の端くれですがあんまり見たことないです、ええ。うまいこと言うじゃないですけどね、ホントに」

 何度も聞いていると、ホントにうまいこと言ってんじゃないの?と思えてしまう、実に残念な口癖です。誠実さを表現したいのであれば、もう少し違う言い方があるんだがなあ。それでその、うまい部分はいいとして、本当に問題のない土地なのかとゆっくり聞けば、まあいろいろあるわけです。

 第一にこの土地は、接道していない。建築基準法上、幅員二メートル以上の道と接していないと家を建てられないため「テントで暮らせってか?」という土地だったのです。隣人から土地を地上げして道をつくるのは?という荒業をさらりと提案されましたが、そこまでしてでも欲しい土地かどうかといえば、なんだか色褪せて見えてくる。

 しかも、水道がきていないので敷設にお金がかかるとか。西に山がそびえているので、午後は一気に暗くなるとか。ごにょごにょと問題点が漏れ出てきました。やっぱりうまいこと言ってたじゃないか。もし今だったら、きっとチラとも検討しないでしょう。