菅直人政権が法人税減税や租税特別措置(租特)の見直しの検討などの税制改革に着手した。「政府税制調査会」の改革は、迷走が続いた鳩山由紀夫政権のほぼ唯一の隠れた成果だ。その成果を生かし、菅政権が抜本的な税制改革を成し遂げられるか。そして、頓挫したはずの「財務省解体」に再び挑戦するのかが今後の焦点となる。

自民党政権期の
政府税調と自民党税調

 政府税調は、内閣総理大臣の諮問に応じて、租税制度に関する基本事項を調査審議する政府の審議会の1つで、その発足は1950年代後半と古い。しかし、自民党政権期には、「自民党税調」の影響力が強大で、「税調のドン」山中貞則氏から「政府税調は軽視しない。無視する」と言われたほどであった。自民党税調は税制改正に関する省庁間・業界間の利害対立の調整を行うことで、次第に政治力を強めていった。

 また、自民党税調は利害調整に加えて、政策知識を蓄積することで税制改正の細部にまで影響を及ぼすようになった。実質的な政策決定を行う少数の幹部たち(顧問、会長、小委員長)は「インナー」と呼ばれ、高度な専門知識を有した「税のプロ」という自負心が強く「素人」の介入を徹底的に排除した。政調会長はおろか、首相ですら「インナー」の政策決定に介入できず、構造改革を断行した小泉純一郎政権でさえ抜本的な税制改革は実現できなかった。

民主党政権の政府税調改革

 鳩山政権では、自民党税調の影響力を完全に排除し、政府税調の再構成を行った。与党・政府の税調機能を一元化するために、従来の財務省主税局の主導による有識者の会議から、財務大臣を会長とし、財務・総務省の副大臣・政務官を査定役、各省庁の副大臣をメンバーとする構成とした。

 また、税調の下に神野直彦東大名誉教授を委員長とする「専門家委員会」を設置した。11名の委員のうち4名が旧政府税調委員でもあり、自民党政権期と一定の継続性を維持しながら、税制の専門的提言を行うことを目的とした。これは、多くの審議会の議論を停止させ、経済財政諮問会議を廃止する「蛮行」を行った鳩山政権が、合理的な組織改革に成功したほぼ唯一の事例だ(第54回を参照のこと)。