活性化が続く一方で、勝ち組と負け組とで二極化が進む不動産市場・市況。単に立地が良かったり、物件が新しいというだけではなく、『立地×ライフスタイル=販売・投資機会』という新たな視点こそが大切、と言う不動産エコノミストの吉野薫氏。大きく変化する土地活用と不動産投資、その変化に備えるために、どのような視点を持つべきか話を聞いた。

 アベノミクスや金融緩和、東京五輪などの効果もあって、住宅や店舗、オフィスの売買、さらに賃貸市場の好調が続いてきた。

 とはいえ、需要は一巡した感もあり、例えば都内でも人気の場所は売れ(借りられ)、そうでない場所では空室が目立つといった「二極化」も進んでいる。

供給が需要をつくる
時代に変わりつつある

吉野 薫氏
日本不動産研究所
研究部 主任研究員

1978年生まれ。不動産エコノミスト。大妻女子大学非常勤講師。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。シンクタンク勤務を経て現職。国内外のマクロ経済と不動産市場の動向に関する調査研究を担当。併せて環境不動産の普及促進に関する事業にも従事。

 日本不動産研究所の不動産エコノミスト・吉野薫氏は、こうした状況を踏まえ、今後の不動産市場・市況について、新たな潮流が生まれつつあると以下のように指摘する。

 「賃貸からスタートして、30代でマンションを購入、将来は庭付き戸建てに住む。そんな『住宅すごろく』におけるストーリーは、ライフスタイルの変化や価値観の多様化によって、変わってきています。実際に地方では、高齢者が中心部から離れた住宅から、利便性の高い都心の高層マンションへ住み替えが増えています。また、戸建ての主流は2階建てでしたが、土地を有効活用できる3階建てが人気になるなど、住まいへの意識も大きく変化しているのです」

 こうした意識や住まい方の変化は、物理的なスペック面だけではなく、ユーザーの生き方の変化が、物件選びの姿勢にも直結しているというのだ。

 「オフィスについては、ここ10年で環境(省エネ)性能が大きくクローズアップされました。エネルギー消費が少なく二酸化炭素排出も少ないオフィスこそが、『働く人が心地良い』空間と認知されるようになりました。また、自然と共生をしたい人の地方移住や、介護などを視野に入れた2世帯、3世帯の住宅にもスポットが当たっています。さらに、既存ストック、つまり『中古』物件をリフォーム・リノベーションして有効活用することも目立ってきました。建物の状態やメンテナンスの履歴などを調べて記録する住宅診断などについても、行政も税制面などでサポートしています」

 人々の需要に合わせて変化するものではなく、むしろ人々のライフスタイルの変化を先読みして、新たな価値観を満たすものを提供することが求められる。つまり、供給が主導して需要をつくっていくものなのだ。

 「人口が減少し空室率が高止まりしていても、住みたい、投資したいという需要を満たせるものなら必ず引き合いがある。土地活用や不動産は、『立地×ライフスタイル=販売・投資機会』といわれます。例えば、人口は減っていても、一人暮らし世帯はほぼ倍増しました。そうした層に新たな価値を提供できれば、商機があるはずです」