17歳の女子高生・児嶋アリサはアルバイトの帰り道、「哲学の道」で哲学者・ニーチェと出会います。
哲学のことを何も知らないアリサでしたが、その日をさかいに不思議なことが起こり始めます。
ニーチェ、キルケゴール、サルトル、ショーペンハウアー、ハイデガー、ヤスパースなど、哲学の偉人たちがぞくぞくと現代的風貌となって京都に現れ、アリサに、“哲学する“とは何か、を教えていく感動の哲学エンタメ小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』。今回は、先読み版の第2回めです。

祝福できないならば呪うことを学べ

「私はニーチェだ。お前に会いに来てやった」

 目の前に立ちはだかった男は、たしかにそう言った。

 時刻は二十一時。バイトを終え、哲学の道を通り、バス停まで向かう途中、一人の男が突然ベンチから立ち上がったかと思いきや、私の目の前に立ちはだかったのだ。

 男は、パーマなのかくせ毛なのかわからない、無造作な黒髪。長めの前髪は、分厚い黒縁メガネをした両目にかかっている。日本人のわりには彫りが深めの顔立ちをしている。

 身長は百七十センチ程度だろうか。

 緑色のネルシャツの裾をデニムにしまいこみ、サスペンダーでデニムを留め、背中にはリュックを背負い、ずいぶんくたびれた茶色い革靴を履いていた。

 そしてそのオタクっぽい服装の不審な男は、バイトを終え、バス停に向かう私の前にいきなり立ちはだかり「ニーチェだ」と声をかけてきたのだ。

「えっと、すいません、人違いじゃないですか?」

「いや、人違いではない、お前は新しい自分になりたい、私に会いたいと願っただろう、だからこうして会いに来た」

「え?なんのことですか?知りません……」

「今日、縁切り神社で新しい自分になれますように!と願っていたではないか。だからその手伝いに来た。私は哲学者のニーチェだ」