環境とCSRを考えるとき、どうしても日本人は製造寄りの発想に立ち「いかにものづくりからCO2を削減するか」と考えがちだ。しかし現実には、「ものづくり」におけるCO2削減努力は、すでに相当のところまで進んでいる。一方、まだまだ削減余地が大きいのは、家庭・オフィス・運輸など「日々のくらし」にまつわる分野だというのは、三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏。低炭素社会実現に向けた可能性の多くは、「日々のくらし」にある。そこに注力するCSRのあり方を聞いた。

 

小宮山 宏(こみやま ひろし)
1944年生まれ。東京大学大学院化学工学専門課程博士課程修了。東京大学工学部教授、工学部長、大学院工学系研究科長を経て、2005年総長。09年より三菱総合研究所理事長(現職)。専門は化学システム工学、機能性材料工学、地球環境工学、CVD反応工学、知識の構造化など。自宅をエコハウスにして、自ら温室効果ガス削減を実践していることでも知られる。著書に『地球持続の技術』(岩波新書)、『「課題先進国」日本──キャッチアップからフロントランナーへ』(中央公論新社)、『低炭素社会』(幻冬舎新書)などがある。

 環境先進国・日本の礎は、「狭い国土」「エネルギー資源の少なさ」「公害」というマイナス要因の克服から始まった。同様に現在の「低炭素社会」実現に向けたハードルの数々を、新たな社会への変革のバネにしようという考え方がある。その際は各企業のビジネスを通じた取り組みが重要になるのはもちろん、カギを握るのが、じつはCSRのチカラなのだ。

小宮山ハウスの
成功事例に続け!

 日本で地球温暖化問題が語られるとき、しばしば「ぞうきん」がたとえに使われる。

 いわく「CO2削減努力は、すでに可能な範囲を実現させた。これ以上を求めるのは乾いたぞうきんを絞るようなものだ」。

 これに対し、「それは最初の認識が間違っている」と指摘するのは、三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏だ。「日本はものづくりにおいて、CO2排出を減らせるだけ減らす努力をしてきました。しかし、家庭・オフィス・輸送という“日々のくらし”においては、削減余地がまだ大いにあります。いわばびしょ濡れぞうきん状態であり、ここを減らす努力が、これからのCSRになるではないか」。

 小宮山氏といえば、有名なのが自宅「小宮山ハウス」だ。家庭におけるCO2削減努力はどこまで成果を上げうるか、自宅を実験台に断熱性能を高め、太陽光発電を取り入れ、給湯にはヒートポンプを導入した。「結果として58%のエネルギー消費が減り、太陽電池による発電で23%が改善して、81%のCO2削減が実現できました。改築以前は1年間におよそ30万円かかっていたわが家の電気とガス代は、3万5000円まで減りました」

 ちなみに小宮山ハウスの実験は2002年のことだが、結果を聞き及んで同様の省エネハウスを建て始めた知人・友人には、エネルギーコスト・ゼロを実現、さらに売電収入を得る例も出始めたという。このあいだに省エネ技術が向上し、電気の買い取り価格も上がったためだ。

 こうした例は住宅に限らず、省エネ家電でもよく耳にする。 古い家電や隙間風が吹く住宅を、「もったいない」と言って使い続けるより、最新型の省エネ対応にすれば、消費エネルギーが大幅に減って省CO2になるうえ、企業が潤って景気が上向く。ひいては低炭素社会に向け、弾みがつくことになる。

 小宮山氏が「これからのCSRに必要な視点」と主張するのは、日本の高い省エネ技術をもっと“日々のくらし”に生かすことだ。たとえば社員の省エネ投資に対し、会社が積極的に支援するものだ。

 実際に三菱総合研究所では、社内エコポイントを創設、断熱改修や省エネ給湯設備購入など、自宅の省エネ化に向けて補助金を出している。「社内エコポイントの創設を検討する企業は、今とても増えています」。