「トランプ大統領がなぜあれだけ騒がれているか、いまだによくわかっていない」。そんな人は、経済学の最小限の知識を知らないといえよう。今回は、そんな人たちのために、『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』の著者・坪井賢一氏に、経済ニュースを読み解くうえで重要な「政治思想」について教えてもらった。

トランプ大統領が経済学的にマズイ理由世界で起きている政治・経済ニュースを読み解くために重要な、「政治思想」の基礎知識を知ろう。Photo:takasu-Fotolia.com

3つの政治思想を知ろう

 政治思想とその背景にある経済学(経済思想)は大きく3つに分かれている。

(1) 保守主義・新自由主義……新古典派経済学(右派)
(2)リベラリズム(リベラル)……ケインズ経済学(中道)
(3)社会民主主義……マルクス経済学(左派)

 ニュースで登場する政治思想の呼び方は、(1)右派、(2)中道、(3)左派である。ときおりそれぞれの中間にある中道右派、中道左派、左右へ飛び出た極右、極左も出てくるが、まずは基本の3つを覚えよう。

坪井賢一(つぼい・けんいち)ダイヤモンド社取締役、論説委員。
1954年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒業。78年にダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集部に配属後、初めて経済学の専門書を読み始める。編集長などを経て現職。桐蔭横浜大学非常勤講師、早稲田大学政治経済学部招聘講師。主な著書に『複雑系の選択』(共著、1997年)、『めちゃくちゃわかるよ!金融』(2009年)、『改訂4版めちゃくちゃわかるよ!経済学』(2012年)、『これならわかるよ!経済思想史』(2015年)、『シュンペーターは何度でもよみがえる』(電子書籍、2016年)(以上ダイヤモンド社刊)など。最新刊は『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』

「(1)保守主義・新自由主義」の背景にある経済学は、市場メカニズムを第一義とする新古典派経済学だ。政府の介入を抑制する小さな政府を目指す。

「(2)リベラル」は、経済危機のときは政府が経済を救う、つまり政府が市場へ介入することを第一義とする「大きな政府」を目指す。

「(3)社会民主主義」は、政府主導の高度な福祉国家を目指す政治思想であり、経済学である。リベラルよりさらに大きな政府となる。

 この3つの政治経済思想が重要なのは、たとえば新自由主義が危機を招き、政策の基盤が崩れると、次に選択する秩序はリベラルか社会民主主義しかないので、予測が可能となるからである。

 あるいは、3つの経済学と政治思想を組み合わせて政権を運営することもある。日本の安倍政権は保守主義政権だが、経済政策については政府が大きく介入するリベラルである。(1)と(2)の組み合わせだ。ドイツのメルケル政権は(1)と(3)政党の大連立で運営されている。