2016年11月28日、国土交通省を事務局とした「インフラメンテナンス国民会議」の設立総会が開催された。社会インフラの安全は、多くの企業やそこで働く人々の技術力や判断力によって支えられ、守られている。今魅力ある“成熟都市”の形成には何が必要なのか。東京都市大学の都市研究推進組織である総合研究所・未来都市研究機構の宮本和明機構長に聞いた。

 快適な都市生活を送るためには、団地をはじめとする生活インフラはもとより、道路や橋梁、上下水道などの社会資本インフラが必要十分に整備されていなければならない。では一体、住み良い街とは何か。少子高齢化が進む日本では、特に人口減少による都市の衰退と再生を考える必要がある。

 東京都市大学の宮本和明教授は「人の生き方に“スマート・エイジング”という考え方があります。老化衰退ではなく成熟するという意味で、これからの都市にはこのスマート・エイジングの考え方を取り入れる必要があると考えています」と語る。

 都市も人間同様に高齢化する。それはインフラや制度にもあてはまる。人の高齢化を成熟機会と捉えるならば、都市もまた成熟する方法を考えなければならない。アンチ・エイジングと高齢化を否定的に見るのではなく、「魅力ある成熟化の機会」として前向きに捉える姿勢である。

最終的な目的は
都市の魅力の向上

東京都市大学総合研究所
未来都市研究機構
宮本和明機構長

1952年神戸市生まれ。東京大学大学院工学系研究科土木工学専門課程博士過程を経て、83年工学博士。95年東北大学工学部土木工学科教授。2016年より現職。同大学都市生活学部教授。内閣府PFI推進委員会・委員長代理も務める。

 都市がスマート・エイジングするためには、公共サービスを適切に提供することによって、住民の生活の質(QOL=クオリティ・オブ・ライフ)を向上させる必要がある。そのためには、インフラの老朽化対策を含め、都市構造そのものを賢く改善しなければならない。

 人間が病気になれば、その治療法に食事療法から手術まであるように、都市も老朽化が進めば、経済的施策からインフラの補修・整備まで、多様な施策が存在する。患者の場合、年齢や体格に合わせて治療方針を決め、処方箋を作る。都市の場合も同様で、その都市の状況に合わせた政策を立案し、その実現のための施策を組み合わせる必要がある。

「大切なのは、インフラ整備は目的ではなく、公共サービスを提供するための手段にすぎないということ。最終的な目的は、住民のQOLと都市本来の機能の向上を通して都市の魅力を高めること」と宮本教授は言う。

 例えば、かつて仙台都市圏の交通計画に携わったときのこと、宮本教授は交通網の整備の前に“都市構造”の改善にまず着目した。郊外化の拡大で “メタボ化”した都市を交通軸上に集約化することを最優先に、都市圏の持続可能性と魅力を高める政策提案をしたのだ。