(2005年10月、マレーシア)

 検品を終えた幸一は、食事を後回しにしてくれとリムに頼み、山を降りてクアラトレンガヌの町へ入り、ホテルへチェックインした。

 シャワーを浴びて今日一日の汗を洗い流してからレポート用紙に向かい、検品結果の報告を箇条書きで簡略に仕上げて、それをフロント脇にあるビジネスセンターから日本の三栄木材本社へファックスした。

 部屋へ戻ろうと幸一がロビーを横切っていると、ポケットの携帯電話がベルを鳴らし始めた。腹を空かせたリムからの電話だと思ったが、取り出して画面を確認すると『UNKNOWN』との表示。おそらく日本からだろうが、誰だろう。

「もしもし」

(山中君か、ファックス見たよ)

 声の主は、意外にも社長の岩本だった。2代目として父親から社長職を引き継いで日が浅い岩本は、まだ40歳を幾つか出たばかりで、社長としては若かった。

「あ、お疲れ様です。今ファックスしたばかりですよ、お早い連絡に驚いています。まだ会社にいらしたんですね」

 幸一は、早すぎる対応に嫌な予感を覚えつつ、ロビーのソファに腰掛けた。

(ああ、こちらは8時過ぎだ。そっちは1時間違いだから、7時かな?)

「はい、これからリムさんと食事に行く予定です」

(それは邪魔をしてすまないね。時間は大丈夫かい?)

「ええ、今は私ひとりです」