記憶力日本一、世界記憶力グランドマスターの技術をふだんの勉強に置き換えたら、どんなすごい勉強法が生まれるのか。そんな問いから始まった新刊『世界記憶力グランドマスターが教える 脳にまかせる勉強法』。もともと記憶に優れていたわけでもないひとりの人間が、どのような変遷を経て、記憶力日本一になったのか? カギは、「メンタル」と「テクニック」のトレーニング方法にありました。

40代半ばで挑戦し、なぜ記憶力日本一になれたのか?(上)

探し続けた能力をアップする方法

 この本を手に取られた方の多くは、「試験に合格したい」「資格を取りたい」「覚える力を養いたい」などの目的を持っておられる方でしょう。目的を達成するために、より効率的な勉強法を手に入れて、今よりもさらにレベルアップを図りたいと考えていらっしゃるかもしれませんね。

 私もかつてはそうでした。

 常に自分の能力をアップさせてくれる方法を模索し続けてきました。しかし、長いあいだ、見つけることができず、見つかったのは恥ずかしながら40代になってからです。

 そこまであきらめずに探し続けてこられたのには理由があります。

 それは「脳はいつからでも鍛えることができる」―このことをずっと信じ続けてきたからなのです。

 そして、それは事実だったのだと、今では実感しています。

 学生時代は、自分に合った勉強法がわからないまま過ごしていました。なんとなく自分の能力を引き出すためのもっといい方法があるはずだという予感はあったものの、結局見つけられず、今思うとずいぶん効率の悪い勉強をしていたというのが感想です。それでも比較的理数系の科目が得意だったので、大学は工学部に入ることができました。

 その延長でエンジニアになったのですが、仕事は無難にこなしていたとはいえ、そこでも「もっと自分は能力をアップさせることができるはず、こんなものではない」という気持ちをどこかに持ちつつ働いていたのを覚えています。

 そうこうしているうちに、父親がガンで亡くなったのです。

 実家の家業は父親が始めた塾でした。

 それまでは家業を継ぐというイメージは、自分の中にほとんど浮かんだことがなかったのですが、父親の死によっていきなり目の前に現実として現れ、そのとき初めて家業を意識しました。

 父が亡くなったタイミングと、自分を変えるきっかけがほしいという思いがたまたまぴったり合うことになり、エンジニアを辞め、家業を継ぐことにしたのです。

 そして塾を継いで数年が過ぎ、手探り状態でなんとか続けてはいたものの、そこでも「これだ!」という手応えはつかめずにいたのです。

 何か新しいものはないか、現状を変える何かはないかと、常に探し続けていました。

 そして塾に導入できる新しいカリキュラムが何かないかといろいろ調べているうちに、たまたま「記憶術」という言葉が目に入ってきたのです。

 これまで理数系の人間として生きてきたので、自分の記憶力がどのぐらいなのか、どうすれば記憶力が上がるのかなどはほとんど考えたこともありませんでした。

 その当時、私が記憶術に対して持っていた印象は、雑誌の裏に載っている怪しい通信教育ぐらいのものだったのです。
 
 ところが調べていくと、記憶術というのは決して怪しいものではないことがわかったのです。

 しかも、それは個人の素質とは関係がないものでした。脳の性質を利用した技術を使えば、誰でも能力アップが図れる方法だったのです。