昨年、日本人最年少で世界七大陸最高峰を制覇した南谷真鈴さん。現在、世界でも約50人しか成し遂げていない「探検家グランドスラム」(世界七大陸最高峰、北極点、南極点を制覇すること)達成への最後の関門、北極点に挑戦中です。本連載では、若干19歳にして偉業を成し遂げることができたそのエッセンスをお伝えするべく、話題の新刊『自分を超え続ける』の内容を一部公開いたします。連載第1回。

「世界七大陸最高峰」は成長のための7つのツール

成長のための7つのツール

 「根っこが多ければ多いほど木は倒れないし、幹も太くなる」
 こんな話を聞いたことがあります。
 
 木と同じように、自分もいろいろな根をたくさん張って、強くなりたい。

 栄養分を目いっぱい吸収して、もっと成長したい。

 1本の根だけで自分を支える、栄養不足でひょろひょろの木にはなりたくない。

 ちょっときついことを言われたら傷ついて、ポキッと折れてしまいたくない。
 
 私はそんなふうに考えていました。山は、私という木が強く育つためのツールでした。

「世界七大陸最高峰」は成長のための7つのツール南谷真鈴 (みなみや・まりん)
1996年、神奈川県川崎市生まれ。1歳半でマレーシアに渡り、大連、上海、香港など幼少時から約12年間を海外で生活。2016年7月、北米大陸最高峰デナリに登頂し、日本人最年少の世界七大陸最高峰登頂者となった。早稲田大学政治経済学部に在学中。「CHANGEMAKERS OF THE YEAR 2016」受賞。「エイボン女性年度賞2016」ソーシャル・イノベーション賞受賞。
 

 「自分の根っこを増やしたい」
 これも、私が冒険をした理由の1つなのです。

 そもそも私が目指していたのはエベレストです。

 世界で一番高い山の頂を自分の力で踏みしめることは、成長するために不可欠だと強く思ってプランをスタートさせました。

 とはいえ、エベレストはいきなり登れるような簡単なものではありません。

 高所と寒さに慣れ、経験を積むために、6000メートルから8000メートル級の登山をしておく必要があります。体力とテクニック、危険の回避手段やとっさの判断力を身につけるには、実際に山を登るのが一番のトレーニングです。

 私は13歳から登山を始め、16歳の時にはカンゼ・チベット族自治州にある7000メートル峰ミニヤコンカの6300メートル付近まで行ったことがありました。

 でもそれだけでは、まだまだ。まだまだどころか、まったく足りない!

 そこでエベレストに向けていくつかの山々を登り始めたところ、それがたまたま世界七大陸最高峰(セブンサミッツ)のうちの3つの山でした。

 「せっかくなら全部登ろう!」

 世界七大陸最高峰登頂は、そんなスタートでした。
 2015年1月から、1年半かけて登頂した山々は次のとおり。

(1) 2015年 1月 3日
アコンカグア(南米大陸最高峰)*

(2) 2015年 8月 6日
キリマンジャロ(アフリカ大陸最高峰)*

(3) 2015年 8月23日
モンブラン(西ヨーロッパ最高峰)

(4) 2015年 10月1日
マナスル(世界第8位)

(5) 2015年 12月13日
コジウスコ(オーストラリア大陸最高峰)

(6) 2015年 12月28日
ビンソン・マシフ(南極大陸最高峰)*

(7) 2016年 2月14日
カルステンツ・ピラミッド(オセアニア最高峰)*

(8) 2016年 3月22日
エルブルース(ヨーロッパ大陸最高峰)*

(9) 2016年 5月23日
エベレスト(アジア大陸最高峰)*

(10) 2016年 7月4日
デナリ(北米大陸最高峰)*

注: *が世界七大陸最高峰。エルブルースではなくモンブランを、カルステンツ・ピラミッドではなくコジウスコを世界七大陸最高峰とする場合もある。

 「トレーニング」と書きましたが、エベレスト以外のどの山も、学びと成長の場だったことは間違いありません。
 もっと言えば、どの山も「トレーニング」などという、なまやさしいものではありませんでした。

 たとえば、スタートとなる南米最高峰アコンカグアでは、山に立ち向かう以前に「不安」という自分の弱さに負けてしまい、心が揺れ動いて泣いてばかりいました。

 また、「なんてタフな山だろう」と叫びたくなったのは、オセアニア最高峰のカルステンツ・ピラミッド。自分の力を試されるような山でした。

 ヨーロッパ大陸最高峰のエルブルースでは、山の厳しさとロシアの冬の厳しさが一緒になって襲いかかってきました。天候に振り回されたためにスケジュールが押してしまい、ダメージが癒えない状態のままエベレストに登ることになったのも、相当にハードな体験だったと思います。

 さらに忘れられないのが、最後の山、デナリです。エベレスト登頂を終え、「ようやくセブンサミッツ達成だ!」という思いで挑んだ北米大陸最高峰は、長らくマッキンリーと呼ばれたアラスカの過酷な山です。探検家の植村直己さんが世界初となる冬季単独登頂後に、帰らぬ人となった場所としても知られています。

 3度も試みて失敗した友人もいるだけに、「並大抵では登れない」と気を引き締めて臨みましたが、実際のところ、私の中の「並大抵」の基準が変わるほどの山だったのです。

 ここで私は死を覚悟するほどの嵐に遭い、最終的には2回も登ることになる難関でした。

 このように、7つの山々はどれも、私の力強い根っことなってくれました。

 あくまで比較の話ですが、2番目に登ったアフリカ大陸最高峰のキリマンジャロ、4番目のオーストラリア大陸最高峰のコジウスコ、6番目の南極大陸最高峰ビンソン・マシフは、自分としては大変ではあるもののスムーズに登れた山です。しかし、そんな山であっても登山体験を重ねることで、知らないうちに自分の根っこが増えていたようです。だからこそ、その後に続く過酷な山に向かっていけたのでしょう。

 経験が根っことなって支えてくれたから、山にはじき返され、叩きのめされそうになっても、折れずに挑戦を続けられたのだと思います。

 だから、改めて感じます。
 いいことも、悪いことも、すべてが自分をつくってくれる。
 すべてが自分を育ててくれる、と。