東日本大震災後、BCP(事業継続計画)見直しや節電対策が急務になるなか、ネットワークを介してITリソース(ハード、ソフト)を利用できるクラウドの有用性が注目されている。耐震構造や電源、セキュリティなどの設備が整ったデータセンターを基盤に、事業者から多種多様なクラウドサービスが提供されており、事業継続の有効な手段となりうるからだ。

 クラウドとは簡単にいえば、インターネットを介して事業者が提供するサービスを利用するもの。サーバやストレージなどのハードウエア、ウイルス対策やインターネット接続のセキュリティ、業務系システムや情報系システムといった各種アプリケーションまで、さまざまなサービスが提供されている。

戸村智憲 日本マネジメント総合研究所 理事長
早稲田大学卒。米国MBA修了。米国博士後期課程(Ph.D)中退。国連に勤務し、国連内部監査業務専門官、国連戦略立案専門官リーダーなどを担当。民間企業役員として監査統括、人事総務統括や、IT企業アシストの顧問、経営行動科学学会理事、岡山大学大学院の講師などを歴任。日本クラウドユーザー協会会長。NHK「クローズアップ現代」出演・番組監修やテレビ朝日「池上彰の学べるニュース」番組監修など、産学ともに幅広く活動中。

 システムを自社で保有するのではなく、クラウド上のサービスを利用することにより、運用・保守をはじめさまざまな手間とコストを削減できる。また、サーバやコンピュータ室の冷却に必要な空調設備などの消費電力を抑える効果もあり、この夏の節電対策としても期待される。

 ITリソースを柔軟に追加・変更できることもクラウドの特徴だ。たとえば、新製品のキャンペーン時にサーバのリソースを契約してシステムを開設。キャンペーン終了後はリソースの規模を縮小するなど、ビジネス環境の変化に応じてムダなくITを活用できる。

 こうした利点に加え、BCP対策としてクラウドの有用性に着目する企業は多い。東日本大震災では、建物の倒壊や津波の被害により、自社で保有していた重要なデータを失った例も報告されている。

「地震に限らず、自然災害で企業が大きな被害に遭うリスクは常にあります。社外のITリソースを利用するクラウドに比べ、自社内でシステムを運用するオンプレミスはデータを保護するうえで安全だと言われてきました。しかし、今回の震災で、その“オンプレミス安全神話”が崩壊してしまったのです」と、日本マネジメント総合研究所の戸村智憲理事長は指摘する。

クラウド活用で
制約のないIT環境を

 災害時のリスク管理やBCPを考えるうえで、クラウドはどんな役割を果たすのだろうか。戸村理事長は「“場所に縛られないIT環境”をつくれること」だという。社屋や工場が被災して、社内システムが使えなくなったり、避難を余儀なくされたりする事態も考えられる。

 クラウド上のメールやグループウエアを活用することで、避難先や自宅などからモバイルやインターネットを介して情報交換が行える。社員の安否や建物の被災状況などの情報を収集、把握し、BCPに即した適切な経営判断を下すことも可能だ。