2017年1月から、新しい制度に改定した「個人型確定拠出年金=iDeCo(イデコ)」が開始されました。以前は、企業年金がない会社に勤める人だけが加入できる制度でしたが、改定後は条件付きながらも、会社に企業年金がある人も始められます。
それにともなって年金や退職金に、働く人たちの注目が集まっているのですが、一方で会社を経営する側にとっては、それらの制度については関心が低いままです。
この度、退職金、企業年金に詳しい山崎俊輔氏が『小さな会社のための新しい退職金・企業年金入門』を上梓。
この連載では、そもそもの退職金制度の仕組みの説明をはじめ、中小企業の社長さんや、人事、総務部門の人たちが、どのように、退職金、企業年金制度を活用すればいいかを、新たに書きおろしてご紹介していきます。

社長だけが知らない<br />確定拠出年金4つのパターン

確定拠出年金の
「総合型」、「選択制」とは?

 第1~4回までの連載を読んで、「中小企業のわが社でも、確定拠出年金ができるかも」と思い始めた社長や人事部長が、次に行き詰まるのは、確定拠出年金の導入の方法です。

 金融機関と相談しながら制度の詳細を詰めればいいのですが、そういったところに話を聞くといきなり「総合型確定拠出年金プランのご提案です」とか「選択制DCをオススメします(DCとは確定拠出年金の略)」と専門用語を言われて困ってしまうことがあるからです。

 そして、あわてて書店で確定拠出年金の書籍を探してみても「総合型」とか「選択制」という言葉がなくて戸惑ってしまいます。法律を直接読めばヒントがあるかもと、確定拠出年金法をチェックしても、やはりそんな言葉はありません。

 これとは別に、よく見かけるのが「企業型」の確定拠出年金と「個人型」の確定拠出年金です。確定拠出年金にはこの2つがある、というのは法律にも書かれていますし、専門書籍にも必ず書かれています。このふたつは確定拠出年金の大きな区別です。ちなみに今盛り上がりを見せているのは個人が任意加入する「個人型確定拠出年金」で、これはiDeCo(イデコ)とも呼ばれています。

 では、「総合型」や「選択制」とはいったい何なのでしょうか?

 これは、「企業型」の確定拠出年金のなかの設計スタイル(導入パターン)です。このほかに2種類を追加して、以下、4つにわけて説明します。

4つの導入パターンを
知っておくといい

 確定拠出年金制度創設から15年がたち、法律には書いていない「導入のパターン」が増えてきています。企業経営者にとって、最低限理解しておきたいポイントを中心に導入パターンをまとめてみたいと思います。

コストは割高だけど設計は自由!
1.単独型の確定拠出年金

 普通に、自社の社員だけを対象に確定拠出年金を導入する場合、直接、厚生労働省(地方厚生局)と規約承認のやりとりをします。制度設計も自由に行えます。これを俗に「単独型」の確定拠出年金といいます。

 自由な制度設計が可能といえば聞こえはいいのですが、オーダーメードスーツのようなもので、その分コストは割高になってしまいます。導入時に数十万円の費用がかかり、ランニングコストとして運営管理機関(DCビジネスを行う金融機関)へ払う費用がひとり5000円という例もあるようです。社員数が多いほど割安になるので、中小企業にとっては負担です。

 また、中小企業ごとに手間ひまをかけることを嫌がる金融機関が単独型の引き受けを断る例も増えているようです。150名の社員がいる会社で断られた例もあるといいます。

自由度はそこそこ、でもコストは割安!
2.総合型の確定拠出年金

 単独型確定拠出年金をオーダーメードスーツに例えるなら、レディメードスーツのようなイメージで利用する確定拠出年金もあります。これを総合型の確定拠出年金といいます。

 総合型の特徴は、最初からたくさんの企業がひとつの規約にぶら下がることを前提に規約設計されていることで、金融機関の子会社や関連会社などが代表企業として役所とのやりとりをやってくれます。

 複数の企業が同時に利用することを前提としているので、制度設計には一定の制約が課せられます。「対象者は(1)厚生年金適用の社員全員対象、(2)役員は除く正社員のみ、(3)正社員のみ、から選ぶ」というようにテンプレートから制度設計を行います。また、運用商品のラインナップは基本的にひとつのパッケージを全企業が共有しカスタマイズの余地がありません。

 その代わり、制度運営コストを単独型より引き下げています。まさにレディメードです。

 かつて業界団体が音頭をとって総合型の厚生年金基金という企業年金が設立されましたが、「総合型」という名前はここからもじっています。しかし、総合型の確定拠出年金では「同じ業界団体の企業のみ加入できる」「社員数は何人まで」というような縛りはありません。

 なお、他の企業と同じ制度に入るといっても、社員の資産は個人ごとに管理されていますので、積み立て不足を連帯責任で償却するような心配はありません。