被災地では選択肢が奪われている
こだわりを主張すると「贅沢だ」の声が

 東日本大震災は、被災地から「選択の自由」を奪いました。

 被災地の子どもたちに文房具を贈るとき、とりあえず鉛筆と消しゴムを渡しておけばいいと考えがちです。小学生はまだしも、中学生や高校生は鉛筆を使いません。

 支給されるおにぎりも、震災前までは海苔が「直巻きでしっとり」「別包装でパリパリ」という違いにこだわっていたのに、避難所ではその選択肢はありません。

 特に象徴的だったのが、女性の下着、ブラジャーの問題です。

 男性は理解しにくいでしょうが、一口にブラジャーと言っても、カップとサイズの組み合わせが複雑で、自分の体に合わないとしっくりきません。しかも女性は「こういうタイプのものがいい」というこだわりを持って選んでいます。何も高いものでなければいけないということではなく、色やデザイン、あるいは素材に対するこだわりなのです。

 全国から寄せられる支援物資のおかげで、被災地には豊富な衣類があります。

 女性用の下着も、物量だけは確保できています。しかし、そこには最もスタンダードなタイプのブラジャーしかありません。被災地の女性は、バリエーションもサイズも少ないことに不満を言いたくても、なかなか言い出すことができないといいます。支援者からの批判を受けてしまうからです。

「贅沢を言うな」「あるだけましじゃないか」「被災者なんだから、お洒落なんかしなくていい」「嫌ならタオルでも巻いておけ」

 支援に善意があるだけに、被災地ではとてもやっかいな問題になっています。