流出し始めた富裕層

「海外に資産や家族を移転したい」。そんな依頼が金融機関に相次いでいる。依頼主の多くは巨額の財産を持った富裕層たち。いったい何が彼らを突き動かしているのか。その実態を探った。

「日本に帰る気なんてサラサラないよ。放射能リスクはまだ消えていないし、日本人には意外に聞こえるかもしれないけど、政情不安が増しているからね」

 日本批判を公言して憚らないのは、香港の金融機関を退職し、目下、転職活動中の30代の日本人男性だ。

 彼は日本の大手証券を振り出しに国内外の金融機関を渡り歩き、若くして億単位の財産を築いた資産家でもある。完全に祖国であるはずの日本に見切りをつけている。

 政策が二転三転する民主党政権の政策運営については特に手厳しく、「減税を主張していたかと思えば、いきなり増税を叫び始める。海外からすると正気の沙汰とは思えない政策がまかり通り、このままでは財政破綻は避けられない」とこき下ろす。

 海外と比較した場合の日本政府の放射能に対する意識の低さも問題視している。そのため、子どもの健康リスクを考えて、仮に仕事の都合で帰国することになったとしても、家族は海外に残して、単身赴任すると決めている。

スイスに資産移転
不動産購入も海外で

 震災、放射能、急速に進む円高、財政破綻懸念──。

 今の日本は、さまざまな“ジャパンリスク”に見舞われている。リスクに敏感な富裕層たちは、祖国に見切りをつけ、動き始めている。

 確かにこれまでも保有資産を海外に逃避させる富裕層は少なからずいた。海外と比べて税率の高い相続税などの課税を回避するためだ。