長年にわたる粉飾決算や多額の使途不明金の発覚など、日本企業への信頼を揺るがす事件が相次いでいる。複雑化したサプライチェーンの一角でこうした事態が発生すれば、思わぬ影響を受けないとも限らない。自社の財務内容を広い視野から見直すことが重要な時代を迎えている。債権・債務チェックの必要性と要点について、早稲田大学ビジネススクールの松田修一教授に聞いた。

松田修一
早稲田大学ビジネススクール
大学院商学研究科(ビジネス専攻)
専門職大学院(MOT担当)
教授(商学博士)
1943年山口県生まれ。66年公認会計士試験2次試験合格。72年早稲田大学大学院商学研究科博士課程単位取得のうえ退学。監査法人サンワ事務所(現監査法人トーマツ)勤務、早稲田大学システム科学研究所(現アジア太平洋研究センター)教授などを経て現職。『起業論』(日本経済新聞社、1997年)、『MOTアドバンスト:技術ベンチャー』(編著、日本能率協会マネジメントセンター、2004年)など編著書多数。

「1980年代まで、企業間の信用は、保有する株式や不動産などの含み益で担保できました。ところが、こうした構造は今、がらりと変わっています」と、早稲田大学ビジネススクールの松田修一教授は指摘する。

 当時の企業経営では、保有資産を担保にした借入金が事業継続の原資の中心となっていた。バブル崩壊時には、企業は不動産や持ち合い株の売却によって、赤字決算を免れた経緯もある。しかしこの結果、多くの企業が財務的な体力を奪われることになった。

 追い打ちをかけたのが、国際会計基準導入に向けた会計基準の変更だ。時価会計の下では含み益を吐き出す操作はできず、「いわば、四半期、半期という短期間でのフローの勝負となっています」。多くの日本企業が財務的な不安定さから抜け出せない現在、債権・債務の管理は、これまで以上に重い課題として経営にのしかかっているといえるだろう。

財務諸表をていねいに
読み込む重要性

 松田教授は、「財務諸表、とりわけ損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)をきちんと関連づけて読み取ることができれば、その企業の財務状態が健全かどうかを判断できるはずです」と明かす。

 例として挙げたのが、上場後半年で粉飾決算が発覚した受注生産型技術ベンチャーA社だ。経営陣は電機や証券などの1部上場企業出身者で占められていたうえに、高度なガバナンス体制を誇っていた。しかしふたを開けてみれば、売上高の95%近くが実体のない粉飾決算で、結局経営破綻した。