ありがとうでは伝えきれない想いがあった。その日、結婚式を迎えた息子。育ててくれた両親に感謝の気持ちを伝えたい。ありがとうの代わりに息子は、おめでとうを言うことにした。式を挙げていない父と母のために内緒で準備した30年目の結婚式。

 30年目の結婚式

  新郎は右手の指が5本揃っていないという障がいをお持ちの方でした。
  結婚式でどんな想いを伝えたいかお伺いしたところ、新郎はまずご両親に感謝を伝えたいとおっしゃいました。
  そして「障がいは自分にとって決してマイナスではなかった」ことも伝えたいというのです。

  新郎のお母さまは朝鮮半島のご出身でした。
  お父さまはお仕事の関係で朝鮮に渡られており、現地で恋をして一緒になりたいと思われました。
  ですが、お母さまのご両親は反対し、なかなか結婚を認めてもらえませんでした。
  三十数年前は国際結婚も一般的ではなく、ましてや戦争で敵国だった日本人との結婚はなかなか理解されませんでした。
  それでも諦めきれないお二人は、駆け落ちすることを決意。
  夜汽車を乗り継ぎ、何週間もかかってそこから船で日本に渡られたそうです。
  お金もなかったために、劣悪な環境での旅でした。
  その道中に、お母さまの妊娠が判明したのです。
  ですが、妊婦だからといって満足にご飯を食べることもできず、ゆっくり横になるスペースもありませんでした。
  そんな過酷な状況だったために、お腹の中にいた息子の手に障がいが出てしまったのだとお母さまは信じておられたのです。