首都圏初となる「データサイエンス学部」が2018年4月、横浜市立大学に新設された。デジタル人材、データサイエンティストの育成・確保が産業界で大きな課題となるなかで、同大学の取り組みに注目が集まっている。学生からの人気も高く、入試の倍率は9倍を超えた。学部長を務める岩崎学教授に、学部新設の背景や学部の特徴、AI・デジタル時代に求められる人材育成の在り方について語ってもらった。

教養教育を重視してきたからこそ
データサイエンス学部が実現した

岩崎 学(いわさきまなぶ)
横浜市立大学 データサイエンス学部
学部長 教授

1975年、東京理科大学理学部卒業。1977年、同大学大学院理学研究科修了。茨城大学助手、防衛大学校助手、成蹊大学教授などを経て、2017年より横浜市立大学データサイエンス推進センター長。2018年4月より現職。2015~2017年日本統計学会会長。2018年5月より応用統計学会会長。

 横浜市立大学は、2005年の公立大学法人化を契機として、国際総合科学部と医学部という2つの学部に改編し、いち早くリベラルアーツ(教養)教育を充実させるとともに、文理融合型の教育を進めてきた。課題解決力を持った人材を育成する実践的な教育と、データサイエンスに必要とされる多様な応用分野を持っていることが大きな特徴だ。

 社会全体として、データサイエンス人材の育成に対するニーズが高まるなかで、リベラルアーツ教育を重視してきた本学だからこそ、他分野に応用できるようなデータサイエンスに取り組めるのではないか。また、医学部を持っていることも強みの1つであり、こうした基盤を生かしながら、学部新設の構想を練っていった。

 横浜市をバックグラウンドに持つ公立大学である点も学部新設の理由の1つだ。首都圏にある大都市であり、豊富なデータを持っていること。横浜市自身がその利活用に積極的に取り組んできたことから、それと連携できるメリットは非常に大きく、横浜市からのデータサイエンス学部への期待度も高い。

 横浜市立大学というと、派手さはないが、堅実で、地味なイメージを持つ人も多いかもしれない。しかし、先日、同窓会でデータサイエンス学部の設立を報告したところ、「昔のイメージと違って、先端的な分野に挑戦しましたね」とOBからは意外性を持って受け止められたようだ。もっとも、時流に乗って学部を新設したわけでなく、地に足がついた取り組みであることは強調しておきたい。

 データサイエンティストには、3つのスキルが求められる。1つは、データサイエンス力。データアナリティクス力と言ってもいい。情報処理や人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使いこなす力だ。2つ目は、データエンジニアリング力。計算機科学やアルゴリズムをもって、実践的にデータを扱う力だ。そして3つ目が、課題解決力だ。課題背景を理解したうえで、ビジネス課題を整理し、解決していく力だ。

 これら3つのスキルを兼ね備えるのが理想ではあるが、学部の卒業生にそれを要求するのはなかなかハードルが高いのも事実。社会人になったときに、最低でもどれか1つは自分のものにしてもらえれば幸いだ。また、社会で不可欠なコミュニケーション能力についても、英語や教養、ゼミなどを通じて身につけてもらう。

 学部は1年次の授業が始まったばかりで、共通教養が中心だが、データサイエンス学部以外にも国際総合科学部、医学部の生徒が混じって教養ゼミなどに参加し、コミュニケーションを図っている。文理融合型を目指すデータサイエンス学部には、文系出身の学生も多い。私は統計学の専門家として、線形代数学を教えているが、やはり文系の学生は少し弱い印象を受ける。それでも、文系・理系の学生たちがお互いを助け合いながら、切磋琢磨する姿を見るのは、頼もしい限りだ。