通俗的で便利な
自律神経失調症

「自律神経失調症」は、よく耳にする病名です。読者の皆さんも一度や二度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

 ところが、その定義ははっきりしていません。そもそも、医師が患者に対して使ってよい言葉なのかどうかもわからないほど、曖昧なものなのです。実際に、「自律神経失調症」と診断されて、いろいろと検査を受けても、原因がわからないことが多々あります。

 誤解を恐れずに言えば、医師にとって、この病名はものすごく“便利”なものです。患者の病状を科学的に説明できないとき、この“便利”な「自律神経失調症」と診断すれば、“逃げる”ことができます。診断を受け、検査を受けた患者も、「大きな病気でなければいい。自律神経失調症なら聞いたことがある」と、納得いかないけれど、受け入れてしまいます。医師と患者の「暗黙の了解」というか、コミュニケーションの一つとして、通俗的に使われているのでしょう。

 とは言うものの、この曖昧な自律神経失調症について、それぞれの医師は頭の中では、それぞれの概念を持っています。今回は、私自身が持つ概念を紹介してみましょう。

精密検査の末に
「問題ありません」?!

 自律神経失調症と診断される症状は不眠、気力の低下、集中できない、食欲の変化、胃腸症状など多彩です。その日の体調により、症状が強かったり弱かったりします。

 医師に相談すると、だいたいの場合、検査をすすめられます。血液検査から始まり尿検査、胃カメラ、腹部エコー検査、レントゲン検査など多岐にわたります。挙句の果てにはCT検査やMRI検査まで受けさせられることもあります。

 しかし、そこまで検査したにもかかわらず、医師からは「医学的に問題が見つかりませんから、これ以上検査は必要ないですし、治療もできません」と、素っ気ない言葉が返ってくるのが普通です。

「症状はいろいろあるのに、これだけ検査を受けさせておいて、何にもないってことはないでしょう」。多くの患者さんがそう思うはずです。実際にそうおっしゃる方もいらっしゃいますし、気持ちもよくわかります。症状が強いほど、また、いろいろ症状がある方ほど、「医学的に問題なし」「治療の必要なし」という医師の言葉は受け入れがたいものです。

 では、いったい、自律神経失調症とは何なのでしょうか。