多くの企業が取り組む「コスト削減」。一部には「コストダウン疲れ」といった状況も見られ、品質低下などの副作用を招いてしまったケースも起きている。重要なことは全体の戦略の中でコストを位置付けること。「最適品質、最適サービスを実現するための最適コスト」を問い続ける中で、コスト競争力向上への道筋が見えてくるはずだ。

早稲田大学ビジネススクール教授
ローランド・ベルガー会長
遠藤 功氏
1956年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、三菱電機入社。その後、ボストン・コンサルティング・グループ、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)などを経て、ローランド・ベルガー日本法人の社長を務める。2006年より同社会長。著書に『現場力を鍛える』『見える化』(いずれも東洋経済新報社)、『日本の営業2011』(ダイヤモンド社)ほか多数。

 国内市場は成熟の度合いを強めており、多くの分野で停滞感が漂っている。そこで、海外市場への展開を加速している日本企業も多いが、現地企業やグローバルプレーヤーとの競争は熾烈だ。

 こうした中、もう一段のコスト削減、あるいはコスト構造改革を目指す企業は少なくない。ただし、やみくもなコスト削減は問題が多い。製品やサービスの品質の劣下、さらには売り上げに悪影響を及ぼすようでは意味がない。早稲田大学ビジネススクール教授でローランド・ベルガー会長を務める遠藤功氏は次のように指摘する。

「コスト削減とコスト競争力向上、この二つを混同しているケースが多いのではないでしょうか。目先のコストダウンだけを追求すれば、品質面などに悪影響をもたらす可能性もあります。それでは、厳しい競争を勝ち抜くことは難しい。重要なのは、価値創造という全体像を踏まえて、コスト競争力をいかに高めるかという視点です」

 コストだけを単独で論じるのではなく、製品やサービスの競争力とのバランスで考える。その中で、最適なコストが見えてくるはずだ。

置かれた状況により
打ち手は異なる

「大事なことは、競争力を高めるための大きなシナリオ、あるいは戦略を描くこと。自社にとっての最適品質や最適サービスを明確にし、それを実現するための最適コストを考えるべきです。もちろん、企業にとってコスト削減は大事なことです。ただ、大きなシナリオなしに目先のコスト削減に走れば、競争力の低下を招く可能性もあります」と遠藤氏は言う。

 ビジネス環境を冷静に分析し、競争に勝ち抜くための戦略を策定した上で、どの分野でどの程度の最適コストを目指すのかを明確化する。ただし、その最適コストを実現するための手段はさまざまだ。サプライヤーとの擦り合わせを通じて、部品の低コスト化を進めることもできるだろうし、共同購買や共同物流といった手法が効果的な場合もあるだろう。

「どのような手段が有効か。それは、個々の企業の置かれた状況によって異なります。ある企業で効果を上げたやり方が、他の企業においては有害なケースもある。その見極めは慎重に行う必要があります」