食道がんと診断されたAさんは、がん治療を専門に行う大病院で食道を切除し、胃を釣り上げる手術を受けた。がんは取り除けたものの、手術後しばらくして釣り上げた胃が破裂し、肺に膿が貯まるようになった。

 急きょ、肺に細い管を挿入し、膿を体外に排出する処置がとられ、背中には胃から排出される内容物を入れる袋が取り付けられた。口から食べることもできず、静脈に埋め込んだカテーテルから点滴で栄養補給する状態になった。

 管だらけになり、「退院はまだ先だろう」と思った矢先、Aさんは担当医にビックリすることを言われたのだ。

「Aさん、退院していいですよ」

 退院前には、自分でガーゼの交換や点滴をする方法が指導され、背中に取り付けた袋に溜まった胃の内容物の捨て方も教えられたが、自分でできるかどうか不安が募った。正直なことを言えば、もう少し入院していたい気持ちが強かったが、有無を言わさない流れの中で、栄養補給の点滴パックを大量に持たされてAさんは退院した。

 今や、こうしたことはAさんに限ったことではない。国の医療制度の変更で、長期入院はなかなかできなくなっている。患者からすれば非情とも思える強硬な退院が行われる背景には、どんな事情が隠されているのだろうか。

日本の平均在院日数は
先進諸国ではダントツに長い!?

 2010年の日本の総医療費は37.4兆円。その約4割にあたる14.1兆円が入院で使われている。この中には入院中に行われる検査や手術も含まれているが、入院医療費を押し上げている要因として指摘されているのが、日本の病院の入院期間の長さだ。

 2009年の先進諸国の平均在院日数は、アメリカ6.3日、イギリス7.8日、ドイツ9.8日、フランス12.8日。一方、日本は33.2日と飛び抜けて長い。医療技術の進歩や制度変更によって、1990年の44.9日より10日以上短縮したものの、日本の入院期間の長さは相変わらずだ。