「そりゃ、ウチだって、やれるならアップルやサムスンみたいに、一流大学の博士号を持ってるようなスター開発者をヘッドハントしてみたい。でも、そんなおカネないからね(笑)」そう笑いながら答える山本社長の会社には、なんと開発担当者はゼロ。
世界シェア90%を誇るウエットスーツ素材、世界No.1の遮蔽率を達成した放射線防護服、ハリウッドスターが「着たい!」と感動したアクション映画用コスチューム……。トップクラスの製品を次々に生み出す秘密はどこにあるのか。

「ウチだって、アップルやサムスンのマネをしたい……」

時代の荒波を乗り越える会社の鉄則<br />「開発担当者」は置かない山本富造(やまもと・とみぞう)高速水着素材で知られる大阪の山本化学工業株式会社・代表取締役社長。社員73名で、社員一人当たりの売り上げは1億円を超える。1959年、曾祖父、祖父は日本初の安価ボタン、父は消しゴム付き鉛筆で大成功を収めた発明家一家の長男として生まれる。1984年、25歳の時に父親の「社長、交代するで」の一言で経営者に。度重なる円高により長らく自転車操業を余儀なくされるも、「超高付加価値商品」に舵を切ったことをきっかけに逆転。現在は医療機器から放射線遮蔽服まで幅広く手がける。特技は少林寺拳法。正拳士四段を保持。ニックネームはトミー。

 結論から言えば、ウチの会社には開発担当者がいない。

 専業の開発担当者を置くのではなくて、社員全員が開発担当者になる。その理由はいたって単純で、専業で雇うとコストがかかるから。で、コストをかけたところで、そのスペシャリストの作った商品が必ず売れるとは限らない。超精鋭部隊が作っても大ゴケすることはあるわけ。

 大手はプロジェクトチームに有名な技術者を入れてるし、アップルだってサムスンだって、世界有数の超エリートがものすごい倍率を潜り抜けて入社して、バリバリ働いて商品を作ってるけど、やっぱり、なかには不発に終わる商品もあるでしょう。大手なら、たまには失敗してもいいかもしれない。でも、ウチみたいなちっちゃい会社では、そうそう失敗している余裕はない。

 だから、人にコストをかけるくらいなら、商品の材料や品質テストにおカネをかけたほうがいい。そのほうがずっとおトク。

 そりゃあ、おカネを注ぎ込んで「高給取りの商品開発者雇ったで!」って言ってもいいけど、そんなことをしても誰が「ほう、そうですか!」って感心してくれる?だーれも感心してくれないし、繰り返しになるけど、それでメシが食えるわけでもない。完成品でしか評価されないんだから、人件費に必要以上のコストをかけるのは間違ってる。