企業の内外に存在する膨大なデータをビジネスに活用する。そんなビッグデータ活用が、さまざまな企業の間で広がりつつある。あるホームセンターは顧客や店員の動きを可視化し、顧客単価を15%向上させた。ビッグデータは人やモノの動きや状態を可視化するだけでなく、埋もれていた課題の発見、解決策の提示にも役立つ。また、新たな商品やサービスを生み出す力にもなる。

 最近、ビッグデータという言葉を頻繁に目にする。ITの進歩を背景に、企業内のデータ量は加速度的に増えている。また、ソーシャルメディアなどの空間でも膨大なデータが日々生成されている。こうしたデータを分析し、ビジネス価値につなげようとする動きが活発化している。

 あるホームセンターでは、センサーを用いて顧客や店員が店内でどのように動き回っているかなどを可視化した。このデータとPOSデータなどの相関を分析した結果、店員の配置が顧客単価に大きく影響することがわかった。その結果を店員の配置に適用することで顧客単価が向上したという。これは、日立グループによるビッグデータ活用のための実証実験によるものだ。

予防保全のための
センサー技術を背景に
課題を明確化

日立製作所 スマート情報システム統括本部 主任技師
(スマート・ビジネス・イノベーション・ラボ データ・アナリティクス・マイスター)
吉田 順(Jun Yoshida)氏

 日立がビッグデータに取り組み始めたのは、2000年代半ばのこと。日立製作所スマート情報システム統括本部の吉田順氏は次のように説明する。

「当初のビッグデータ活用領域は、機械の予防保全でした。ガスタービンや鉄道設備などにさまざまなセンサーを取り付けて、そのデータを分析することで部品交換の時期や箇所などの最適化を図っていました。ただ、そうしたセンサーで取得できる情報量はあまりに膨大で、高速で処理・分析する必要があります。大量データ分析のノウハウを蓄積しながら、いかにビジネスに活用するかを模索してきました」

 メーカー故に「データが必要であれば、どのようなセンサーでも開発できる」と言う吉田氏は、その例として、日立のパートナーであるソリューションプロバイダ・JSOLと共同で行ったビッグデータ活用の実証実験の一つを挙げた。Jリーグ柏レイソルの育成組織・柏レイソルアカデミーに協力を仰ぎ、所属する18歳以下の選手に運動量や運動の質を感知するセンサーを付けて生活してもらったという。

「試合中のパフォーマンスや一日24時間の生活を分析して可視化しました。その中に睡眠時間が不規則で平日は4時間しか眠っていない選手がいて、監督にヒアリングしたところ、彼の自宅は練習場から遠く離れており、毎日早起きで大変だろうと思っていたが、まさか4時間しか睡眠時間がないとは知らなかったとのこと。さらに、彼は大会での合宿中は非常にパフォーマンスが上っていて、普段は睡眠不足でパフォーマンスが下がってしまっていたのだろうと、気付いたそうです。この実証実験では、パフォーマンスと睡眠が密接に関係していることが明らかになりました」と吉田氏。

 人やモノの動き、状態などを可視化すれば、課題を浮き彫りにし、適切な解決策に結び付けることができる。ビッグデータは、個人のポテンシャルさえも計測・分析するのである。