東日本大震災ではその発生直後、日本全国から実に多くの寄付金が被災地支援のために寄せられた。その総額は約6000億円にものぼるという。今回の震災の特徴は、なんと言っても甚大かつ広範囲にわたる被害だったということ。震災直後は交通網が寸断され、ボランティアチームもすぐに被災地に入ることができなかった。そのため、「寄付」という行為がこれまで以上に実用的な支援策として認識されたとも言われている。多額の寄付金が迅速に集まった背景には、ソフトバンクの「チャリティホワイト」を一例に、モバイル・ギビングと呼ばれる携帯電話を使った“簡便な寄付手段”の存在も寄与する。では、この震災を経て、日本社会の寄付に対する意識や災害支援のカタチはどのように変化したのだろうか。ファンドレイジングの専門家、鵜尾雅隆氏にうかがった。 

数字が裏づける
日本人の意識変化

鵜尾雅隆 (うお・まさたか)
日本ファンドレイジング協会 代表理事
株式会社ファンドレックス 代表取締役
91年にJICA国際協力事業団(当時)入団。外務省経済協力局、インドネシア事務所勤務などを経て、04年に米国ケース大学大学院で非営利組織管理修士号を取得。05年に「ファンドレイジング道場」を立ち上げ、08年にNPO向けファンドレイジング・コンサルティング会社を設立。09年に日本ファンドレイジング協会を設立、常務理事を経て現職。

 東日本大震災に対する震災寄付の総額は、義援金・支援金を合わせ約6000億円にも達した。これは、日本ファンドレイジング協会の調査報告書『寄付白書2012』(カコミ参照)の制作にあたり、寄付の受け手側から積み上げて算出した数字である。個人向けの推計調査により個人寄付が約5000億円、法人寄付が約1000億円強という数字も明らかになった。

 印象的だったのは、震災直後にオンラインによる寄付が非常に伸びたということ。さらに、寄付を募るキャンペーンを自ら立ち上げた人が非常に多かったことだ。仲間を巻き込んだチャリティイベントが日本全国で同時多発的に開催された。これは、単にどこかに寄付するだけではなく、被災地のためにもっと何かしたいという強い想いから、自分自身が寄付を集める「ハブ」のような役割を果たした人が多かったからだろう。5000億円という巨額の個人寄付が集まったのも、そうした一人ひとりが寄付のムーブメントを作っていったからでもある。

 実際に、こうした現象は数字が裏づけている。『寄付白書2012』でも紹介しているとおり、今回の震災に何らかの寄付を行った人は8500万人以上にものぼった。これだけの多数が寄付に参加したのは、いまだかつて日本の歴史上なかったことだろう。

 また、震災後の意識変化について、「政府にまかせるだけではいけないと思うようになった」と回答した人が全体の85%。内閣府の調査でも、近年では7割の人が「社会に役立ちたいと思っている」と回答。理念だけで行動できる欧米社会と違い、体験することで初めて共有できる実体験型の日本社会にとって、今回の大震災が日本人の社会貢献意識に大きな変化をもたらしたことは間違いない。

『寄付白書2012』
日本ファンドレイジング協会[編]
経団連出版[発行]

日本の寄付文化を発展させるため、寄付市場を示す包括的なレポート
として2010年より年1回発行されている。
日本ファンドレイジング協会
http://jfra.jp/