夢を描く以前に、今の子どもたちは夢を持っていない子が多い!?そして、その原因は大人にあるのでは…。陸上選手として栄光と挫折を経験してきた為末大さんと、優秀な人材を学校に送り込む活動を展開する教育系NPOティーチ・フォー・ジャパン代表の松田悠介さんに、夢をテーマに語っていただきました。(全3回:撮影 宇佐見利明)

夢を持てない子が急増中。これは
「現実を見ろ」という大人の責任!?

松田前回、自分の夢がかなわない、と知ってしまったときにどうするか、といったことについて話をうかがいましたが、僕が教育現場で感じたのは、そもそも夢を持っていない子どもたちが多いということでした。

為末 それは問題ですね。今の子どもたちは、どうして夢を持てないのですか。

松田 自尊心が低くて、夢を持ってもどうせうまくかないと考えているようです。財団法人日本青少年研究所の調査によると、「自分が価値のある人間と思うか」という質問に対して、アメリカが57.2%、中国が42.2%「全くそうだ」と答えているのに対して、日本人は7.5%しかおらず、「まあそうだ」を含めても36.1%。逆にいえば、65%近い人たちが自分はダメだと思っているわけです。筑波大学の調査でも、将来に希望があると答えた中学生は、中国は9割を超えているのに、日本は3割弱しかいないんです。

自分をダメだと思う高校生は65%!<br />夢を持つことを許されない子どもたち為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。2001年エドモントン世界選手権で、男子400mハードル日本人初となる銅メダルを獲得。さらに、2005年ヘルシンキ世界選手権でも銅メダルと、トラック種目で初めて日本人が世界大会で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3大会に出場。“侍ハードラー“の異名を持つトップアスリート。2003年に大阪ガスを退社し、プロに転向。2012年6月、大阪で行われた日本陸上競技選手権大会を最後に、25年間の現役生活に終止符を打った。Twitterフォロワー16万を超え「知的に語れるアスリート」として、言動にも注目が集まる。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリートソサエティ」を設立。現在、代表理事を務めている。著書は、『走りながら考える』(ダイヤモンド社)、『諦める力』(プレジデント社)、『負けを生かす技術』(朝日新聞出版)等多数。

為末 同じようなデータを見たことがあります。これは文化的な背景があるのでしょうか。

松田 僕は文化というより大人の責任だと思います。子どもたちは生まれもって自信がないわけではありません。それが証拠に小学生までは、多くの子どもたちが夢を持っているんです。将来、何になりたいか聞いてみると、「パティシエになりたい」とか、「プロ野球選手になりたい」とか、みんな何かしらの夢を語ってくれます。

 ところが中学に入った途端、夢を語ることがタブーになってしまう。大人側が「プロなんて本当になれると思ってるのか」とか「現実を見なさい」、「とにかく受験だ」とか言うから、「夢を追いかけることは悪いことだ」と思ってしまうんです。その結果、一回も本気で夢を目指さないまま、夢を持つことすらやめるようになる。

 これでは人が育つはずがありません。人が資源であるこの国で、こういうことを続けていると、相当に厳しいことになると思います。

「I can」と「They want」
この二つで人は頑張れる

松田 いま子どもたちに伝えているのは、「I want」と「I can」です。パティシエになりたいというのは「I want」で、小学校のときにみんなwantを持っています。ただ、そこに「自分だってやればできるんだ」という「I can」が加わらないと、夢に向かって進んでいけない。子どもたちの自己肯定感をいかに高めるか。それが、いま教育が抱えている課題の一つです。

為末 僕の「かけっこ教室」でも、子どもたちにハードルを飛んでもらうときには、かなり低い高さから始めるんです。それが成功してだんだん高くすると、最後にはけっこう高いところまで飛べる。できなかったことができるようになること、そして自分で飛ぼうとしたということ。それが自信になって、いい結果につながっていく。学校でも、そういうやり方ができるといいですが。

松田 日本の教育は、ずっと○×方式で評価してきましたからね。この弊害は大きいと思います。たとえば英語。日本人は中高大で10年間勉強しているのに、道端で外国人に話しかけられても話せない人が多いですよね。これは、完璧に話せないと×だと思ってしまうから。べつに100点じゃなくてもいいのに、子どもたちは減点が怖くなってしまう。

為末 子どもたちに前向きな気持ちになってもらうには、「They want」も必要でしょうね。職業はそもそも誰かのために、そして誰かが求めてくれる「They want」がないと成立しないし、まわりがそれを認めていないと、本人もやる気が続かない。

松田 そう思います。「よくできたね」と声をかけて、承認欲求を満たしてあげることが、子どもたちの自己肯定感につながっていきます。「They want」をデイリーに感じさせてあげることが、大人の役目だと思うんです。