売春島や歌舞伎町といった「見て見ぬふり」をされる現実に踏み込む、社会学者・開沼博。そして、クラブ規制で注目を浴びる風営法の問題に正面からぶつかり、発信をつづける、音楽ライター・磯部涼。『漂白される社会』(ダイヤモンド社)の刊行を記念して、ニュースからはこぼれ落ちる、「漂白」される繁華街の現状を明らかにする異色対談。
第1回は、音楽やサブカルチャーの過去と現在をひも解きながら、なぜ磯部が風営法に目を向けたのか、そのきっかけへと話は深まる。対談は全5回。

違法でもバレなければいい

開沼 2012年の『踊ってはいけない国、日本』に続いて、今年の4月には『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(以上、河出書房新社)を出版されました。1冊目は、抽象的な話も含めて、踊りや風営法のことが中心です。一方で、2冊目は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんや、Let's DANCE署名推進委員会の齋藤貴弘さん、レイシストをしばき隊の野間易通さんがいて、「社会運動を見ていく」という作品になっていると思います。

 ただ、たしかに異なるパッケージですが、磯部さんの文章を読んでいると「ぶれてないな」とも感じます。根本的な問題意識があり、クロノロジー(年代学)として風営法を見るという、ある面で冷静な意識があるのかもしれません。そもそも、なぜ風営法という問題意識にたどり着いたんですか?

不良も、盛り場も、もはや終わっていく存在<br />なぜ、風営法の問題にたどり着いたのか?<br />【音楽ライター・磯部涼×社会学者・開沼博】磯部涼(いそべ・りょう)
音楽ライター。1978年、千葉県千葉市生まれ。1990年代末から商業誌への寄稿を開始し、主に、日本のマイナーな音楽の現場について執筆してきた。著作に、『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』(太田出版)、『プロジェクトFUKUSHIMA!2011/3.11-8.15 いま文化に何ができるか』(K&B)、『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト)がある。
近年は、日本のクラブ業界においてタブー視されてきた風営法の問題解決に取り組み、同問題をテーマにした『踊ってはいけない国、日本』(河出書房新社)と、その続編『踊ってはいけない国で、踊り続けるには』(同)の編著者を務めた。
撮影:植本一子

磯部 突然、フロアの灯りがついて、スピーカーの音が止まる。そこに警察官が入ってくる。彼らが帰ったあと、しばらくして、また音が鳴り出す。90年代の終わり、まだ10代の頃に、クラブで何度かそういった体験をしました。

 批評家でもある近田春夫さんは、1987年に「Hoo!Ei!Ho!」(作詞:近田春夫)というラップの楽曲をリリースしています。その中に「Hoo! Ei! Ho!は単なるイヤガラセに決まってるんだから 本気で怒っちゃソンするドアだけしめときゃ バレないさ」という歌詞があるんですよ。

 今のように、クラブが風営法違反で摘発される様子がニュースになることはありませんでしたけど、昔から、音楽好きなら、風営法とクラブの問題は誰でも知っていることでした。そして、「Hoo! Ei! Ho!」は、そこでのスタンスを象徴する楽曲だと思います。

 風営法を改正するとなったら社会運動やロビイングをしなければならず、そうなると、違法営業をしている自分たちの立場が危うくなるかもしれない。だったら、本気で立ち向かうのはバカバカしいから、「やり過ごせばいいや」という考えですね。そして、以前は僕もそう考えていました。