タクシー運転手の
つぶやきに思う

オウチーノ代表取締役
社長 兼 CEO
井端純一 いばた・じゅんいち

同志社大学文学部新聞学(現メディア学)専攻卒。
リクルートを経て、『週刊CHINTAI『ZAGATSURVEY』取締役編集長などを歴任。2003年、オウチーノを設立。新築専門サイト「新築オウチーノ」、中古専門サイト「中古オウチーノ」、リフォーム業者検索サイト「リフォーム・オウチーノ」、建築家マッチングサイト「建築家オウチーノ」などを運営。著書に『広報・PR・パブリシティ』(電通)、『30年後に絶対後悔しない中古マンションの選び方』(河出書房新社)などがある。

 タクシーに乗るたび、「景気はどう?」と尋ねる。運転手との短い会話から、リアルに景気動向がわかる気がするからだ。

「いやあ、若干よくなった気もするけど、本当のところ、実感はないね。僕らにお金が回ってくるのは、一番最後だからね」

 おおむね、こんな返事が返ってくる。アベノミクスの三本の矢で、日銀がジャブジャブと資金を銀行に回しても、そこから市中に回っていかない。ムードだけが空回りしている。

 やはり誰もが同じように、実体経済を様子見しているのではないだろうか。景気がやや上向いたと言いながら、設備投資は増えていない。そして何より、所得が上がっていない。こんな中で来年4月、消費税を上げていいものだろうか。

ローン控除の拡大と
需要の先食い懸念

  振り返ると1997年4月、消費税が3%から5%に上がった約半年後、山一證券、三洋証券、北海道拓殖銀行が破綻し、翌年には日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が破綻した。それらと連動したわけではないが、不動産業界にも不況が押し寄せて、「住宅が売れない時代」が到来した。

 理由は、消費税増税前に、「需要の先食い」が起きたからだ。そして増税後は、潮が引くように需要が減退していった。

 同様の結果を見越していたのだろうか。7月の首都圏マンション販売戸数は前年同月比3割増。契約率も81.6%と前年同月を8.4ポイントも上回った。家電エコポイントで薄型テレビが大量に売れ、メーカーが大幅設備投資した後、エコポイント切れの反動で沈んでいった事実を想起しないか。

 もちろん、政府は「しかるべき手を打っている」と言うだろう。住宅ローン控除を拡充して、消費税増税後もローン控除や現金給付で「戻りがある」ように手当てしているからだ。