これまでの電力システムと原子力行政

電力システム改革は原子力問題を複雑化させる<br />――澤昭裕・国際環境経済研究所所長、21世紀政策研究所研究主幹さわ・あきひろ
1981年一橋大学経済学部卒業・通商産業省入省。1987年行政学修士(プリンストン大学)、1997年工業技術院人事課長、2001年環境政策課長、 2003年資源エネルギー庁資源燃料部政策課長。2004年8月~2008年7月東京大学先端科学技術研究センター教授。2007年5月より現職。著書に『エコ亡国論』(新潮新書)、21世紀政策研究所の提言書として『難航する地球温暖化国際交渉の打開に向けて』、『温室効果ガス1990年比25%削減の経済影響~地域経済・所得分配への影響分析~』『精神論ぬきの電力入門』(新潮新書)など多数。

 これまで、一般電気事業者には電気事業法によって供給義務が課せられてきた。したがって、一般電気事業者はピーク時にも停電を生じさせないよう、適切な予備力を有していなければならない。

 その予備力形成に必要な投資を事業者に行わせるためには、設備に関する固定費を回収する仕組みを整備しておく必要がある。ゆえに、松永安左衛門とGHQが主導して構築した戦後の民営9電力体制のもとで、次のようなスキームが採用された。

 すなわち、総括原価方式による料金規制と電力債(電気事業法に基づき、沖縄電力を除く9電力会社が発行する一般担保付社債を電力債と呼ぶ)を発行する際に有利となる一般担保(社債権者が社債の発行会社の全財産について、他の債権者に優先して弁済を受けられる一種の先取特権のこと)によって事業者の利益と設備形成に必要なファイナンスを確実にし、さらに地域独占によって一定の売上げと市場シェアを保証するという仕組みである。

 こうした制度のもとで、安定的な経営が可能となった電力会社は、国のエネルギー政策の実施主体として電気事業を担うことが可能となり、原子力事業についても官民一体の推進体制が整うこととなった。

 原子力については、導入当初からエネルギー自給率の低い日本にとって、地政学的リスクや燃料費上昇リスクを回避するために必須の電源であるとの認識が存在したが、特に1973年及び1979年の二度にわたる、日本を襲った石油危機は、石油代替エネルギーの開発とその利用促進とを政策の第一プライオリティに押し上げ、原子力電源の開発を加速させた。

 さらには、発電の結果生じたプルトニウムを使用済み燃料から抽出の上、高速増殖炉燃料として国内で再利用することで、ウランの利用効率を高めることが可能となった。これにより、準国産エネルギー的役割を原子力発電に担わせることができるとして、使用済み燃料の再処理及び高速増殖炉を柱とする、いわゆる「核燃料サイクル政策」路線も強力に推進された。