インフレに強く、株や債券に比べると価格が下がりにくいことから、資産防衛のための金融商品として根強い人気の「金」。その魅力と資産運用のコツについて、元スイス銀行(チューリッヒ)外国為替貴金属ディーラーで、日本における金の第一人者である豊島逸夫氏に聞いた。

豊島逸夫
三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)を経て、スイス銀行にて外国為替貴金属ディーラーに。2011年9月までワールドゴールドカウンシル(WGC)日本代表を務めた。豊富な相場経験を基に「金の第一人者」として、金相場・金投資をわかりやすく説く。

「底抜け」しにくい
  金の価格

「20代、30代の人たちを対象とする投資セミナーでお話しをする機会も多いのですが、老後資金づくりを真剣に考える若い人たちが増えていることを実感します。金に対する関心を持つ方も、20代から60代まで、幅広くなっているようです」と豊島氏。

 金は株や債券と違って、配当や利息を生む金融商品ではない。安定的なインカムが得られるわけではなく、年金代わりには不向きと思われがちだったが、「リーマンショックで世界中の株や債券が暴落したときも、金価格だけは底が抜けず、むしろ、その後の米国の量的緩和によって価格が大きく上昇しました。この事実が金に対する信頼感を強めたようです」(豊島氏)。

インドと中国の需要が
金価格の上昇を促す

 円建てで1グラム=4500円前後(8月末時点)の金価格は、少なくとも10年後に2倍強の1万円前後まで上昇する可能性が高いと豊島さんは見る。世界1、2位の金消費国であるインドと中国のさらなる需要拡大が予想されるからだ。

「金の調査を行っているワールドゴールドカウンシル(WGC)が発表した今年4~6月期の世界の金需給データによると、インドの購入量は前年同期比71%増の310トン、中国が同87%増の275.7トンでした。4~6月といえばインドも中国も経済が大きく落ち込んだ時期ですが、金価格が一時1200ドル割れまで暴落したことから大量の買いが入ったようです。

 もともとインド人と中国人はとても金が好きなので、景気にかかわらず、買えるときには金を買います。今後景気がよくなれば両国の金消費はますます増えるでしょう」(同)

 同じくWGCが発表した昨年7月から今年6月までの1年間の金需給データを見ると、インドと中国の購入量は合わせて2000トン近くに上る。昨年の世界の金生産量は2862.5トンだから、じつにその約7割をインドと中国の2ヵ国だけで消費している計算だ。

「足下は米国の量的緩和縮小懸念によって金価格が低迷していますが、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和の“出口”を模索し始めているということは、米国経済が回復に向かっていることの証しです。米国経済がよくなれば、現在低迷しているインド経済や中国経済も甦るはず。リーマンショック以降の金価格の上昇は、米国の量的緩和による過剰流動性がもたらした金融相場でしたが、来年以降はインドと中国の実需に支えられた上昇相場が繰り広げられるはず。

 5年スパンで見れば、2011年に付けた史上最高値の1オンス=1923ドルを上回ることも十分に考えられるでしょう」と豊島さんは予想する。

 アベノミクスによる円安の進行も、円建てで金を取引する日本人にとっては追い風だ。

「以前はニューヨークの金価格が上昇しても、円高の影響で国内価格は上がらないことも珍しくなかったのですが、円安のおかげで、日本の個人投資家が金を購入するのに望ましい環境が整ってきたと言えます」(同)