2014年1月25日、K.I.T.虎ノ門大学院(以下、K.I.T.)において、記念講演「グローバル時代の知的財産マネジメント―日米欧を代表するグローバル企業の知財活動―」が開催された。これはK.I.Tの知的創造システム専攻の設立10周年を記念したもので、三人のプロフェッショナルが知財をめぐる環境変化や最新動向などについて講演したほか、パネルディスカッションも行われた。

経営をサポートする
知的財産部を目指した

 最初に登壇したのはトヨタ自動車の前知的財産部長で、現在はトヨタテクニカルディベロップメント常務理事を務める佐々木剛史氏。自動車産業における環境変化として、佐々木氏はICTとの融合、新興国市場の拡大を指摘。こうした変化が知財戦略にも影響を与えていると言う。

トヨタテクニカルディベロップメント
常務理事 知財分野担当
(前・トヨタ自動車 知的財産部長)
佐々木剛史氏

「現在は『自動車が通信機器を載せている』という状態ですが、いずれ『通信機器が自動車の形をしている』という時代が来るかもしれません。そこで、ICTやエレクロトニクスなどを含めて、知財部門がウオッチすべき領域も広がっています。また、中国などで出願される特許が増えつつある中で、従来のような知財マネジメントは難しくなるのではないかと危惧しています」

 新型車の開発などの際、トヨタは関連するすべての特許を精査して、問題があれば設計変更による回避策を講じたり、外部と特許ライセンス契約を結んだりして知財関連の課題をクリアしてきたという。新興国で膨大な数の特許が出願されるようになれば、こうした厳格な手法を維持するためのコストは急上昇する可能性がある。

 佐々木氏はトヨタの知的財産部長時代、「経営をサポートする知財」を強く意識したという。「外部のリソースを活用し、知財部門はできるだけ経営寄りの立ち位置をとる」という姿勢だ。例えば、ハイブリッド車関連の特許について知的財産部が収集・分析したレポートは、その開発の方向性を議論する中でも活用されたという。

 また、知的財産部がM&Aをリードしたこともあるという。「非接触給電システムにおける特許を分析し、知的財産部の主導で、重要特許を持つ企業への出資と共同開発を実現しました」と佐々木氏。知財部門の役割は、時代とともに変化しつつあるようだ。

「知財はイノベーションの通貨」

 続いてスピーチに立ったのは、日本マイクロソフト知的財産部長の阿部豊隆氏である。阿部氏は米マイクロソフト本社の知財部門で数年間勤務した経験を持つ。日本マイクロソフトに移った現在は、日本において特許ポートフォリオの構築・係争・知財政策などに従事するほか、韓国や東南アジアでの特許の権利化などにも携わっている。

「知財戦略においてオープンイノベーションを推進しているマイクロソフトでは、“IP (Intellectual Property) is currency of innovation.(知財はイノベーションの通貨)”というモットーを掲げています。知財を相互に利用できるようにしてイノベーションを促進する上で、知的財産権が通貨のような役割も果たします」