悪夢のリーマンショックから景気回復までの間(2008年9月~11年12月)、米国民はインターネットにかじりついて健康情報をむさぼっていたようだ。サンディエゴ州立大学とサンタフェ研究所の共同研究から。

 研究チームは一般的な健康上の問題を示すキーワードとして、「胸」「頭痛」「心臓」「痛み」「胃」を抽出。米国人が景気後退局面にこれらのキーワードを含む言葉でネット検索した頻度を測定した。キーワードで導き出された症状と病気の数は343種類。検索された単語を見ているだけで具合が悪くなりそうだが……。

 続いて、研究チームは景気がまあまあの時期の検索頻度を想定。景気後退局面の検索頻度と比較してみたのだ。その結果、最も頻度が高かったのは「胃潰瘍の症状」で平時の228%増(!)という結果だった。続いて「(重篤な病気に関連する)症状としての頭痛」が193%増、そのほか、単純な頭痛が41%増、ヘルニア37%増、胸の痛み35%増、心臓不整脈32%増と軒並み上昇。背中の痛みや関節痛、歯の痛みなども予想を上回る頻度で検索されていた。リーマン以前、健康に関する検索頻度はむしろ微減だったのにもかかわらず、である。トップ100の症状だけで検索件数は、合計2億件を超えた。興味深いのは11年以降、景気後退の波は収まったかに見えるのに、健康関連の検索頻度は依然として高い水準を保っていること。大多数の米国民にとって、景気回復を実感するには、ほど遠い状況なのかもしれない。

 研究者は「保健衛生当局は、人々のストレスを軽減し、予防策を取るために健康関連の検索語をモニターするべき」としているが、むしろ経済行政を牛耳る当局が参考にしたほうがよさそうだ。景気動向を探る指標としても有効だろうし、経済と健康・医療政策は切り離せないという教訓にもなる。

 さて、個々人で活用するには、ここ最近の検索語が健康関連に偏っていないか、振り返ってみよう。積極的な受診行動に結びつかず、クヨクヨと検索を繰り返しているようなら「小づかい値上げ交渉」が必要かもしれません。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド