東京生まれ、会社勤め、共働き、子ども3人。「田舎素人」の一家が始めた、東京‐南房総を毎週末往復する「二地域居住」という暮らし方。一家がようやく巡り合った運命の土地にもいろいろな問題が見つかっていく…。新刊『週末は田舎暮らし』から、本文を一部抜粋して紹介する4回連載の最終回。

運命の土地

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 分からないことだらけの物件探しで学んだことは、「分からないことは不動産屋さんに直接質問するに限る」。すぐさまこの南房総の物件に関する問い合わせフォームに、もっとも知りたかった2点を記入、送信しました。

「平坦地はどれくらいありますか?」
「農地の売買はできるのですか?」

 すると、ほどなくこんな返事が返ってきました。

「平坦地は2500坪以上あります」
「農地は、物件に居住していただければ取得できます」

 これを見た夫は、普段からぎょろんとした目をさらにくわっと開けて叫びました。

「おお! 広いぞ! それでポルシェ価格か? 現実的じゃないか。とりあえず見に行く価値はあるよなあ!」

 そうだねえ、と相槌を打ちながら、わたしはでもなんとなく半身引いていました。農地って本当に住むだけで取得できるのか? ”南房総市”ということは房総半島の南端、遠すぎやしないか? そして広すぎやしないか? 第一、安すぎやしないか? と。わたしがもうひとつ学んでいたことは「質問への回答は、重要さも重大さも重さ半減で表現されている場合が多い」ですから。

「まあでもさ、見るだけ見てみようよ。何しろ、8700坪だぜ! インフラ完備だぜ!」

 お金に目が眩む人はよくいますが、これまで「使用可否不明井戸あり上水なし」や「廃屋あり現状渡し」の物件を見続けているためか、広さだとか、インフラだとかに目が眩む夫。まあ、百聞は一見にしかずです。
 早速不動産屋さんとアポをとり、現地へと向かったのは、翌々日の早朝のことでした。この日はまず、仲介の不動産事務所で待ち合わせ。聞けばこの物件、売り主さんが月に数回来て農地や家の管理をしているらしく、「鍵をあずかっていますんで、家の中にも入れますよ」とのこと。本当に即入居が可能なようです。

 それから、あのー、わたしたち農家じゃないですけれども、”本当に”農地を買うことができるんですか? と一番気になることを直接確認すると、「宅地のようにすぐに登記できるってわけにはいかないんですがね、まあ段取りを踏めば大丈夫ですよ」と、さらり。

 さらりと言われたからといって、さらりと進むわけないんだよな、だいたい段取りってなんだろうと訝りつつも、「とりあえず細かいことは、土地を見てみてからお話ししましょうか」とおっとり笑う不動産屋さんの赤い車についていきました。