今回ご紹介するのはP.F.ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』です。イノベーションを実施するためには何をすればいいのかを体系的に解説した書で、発行から30年近く経った今でもまったく色褪せません。経営に携わるすべての人に是非読んでいただきたい一冊です。

30年かけて完成した
「シュンペーターの経済学」

イノベーションを体系的に解説した<br />ドラッカーの代表作P.F.ドラッカー著、上田惇生訳『イノベーションと企業家精神』 2007年3月刊。『ドラッカー名著集』シリーズの装丁。帯コピーは野中郁次郎先生の推薦文です。

 本書の原題は“Innovation and Entrepreneurship”、1985年に発行され、翻訳版も同年に出版されました。2007年版の本書は改訳され、『ドラッカー名著集』第5巻として世に出たものです。

「イノベーション」を経済成長の駆動力としてシステムの内部に位置づけ、「企業家」を生産要素に取り入れたのはJ.A.シュンペーター(1883-1950)でした。29歳のシュンペーターは『経済発展の理論』(第1版、1912)で、「企業家による新結合が資本主義を駆動する」と説いたのです。

『経済発展の理論』(第2版、1926)で論理を彫琢すると、1932年にボン大学教授からハーバード大学経済学部教授へ転じ、『景気循環論』(1939)で「新結合」を「イノベーション」に置き換えました。そして『資本主義・社会主義・民主主義』(1942)で、イノベーションを遂行するためには「創造的破壊」が必要だと書いたのです。

「シュンペーターの経済学」はこうして30年間を費やして完成するわけですが、その後の理論経済学に取り入れられることはありませんでした。ボン大学やハーバード大学では、並み居る秀才の教え子たちに「シュンペーターの経済学」を講義したことは一度もなかったのだそうです。