脳年齢、血管年齢、肌年齢というのはよく聞くが、「口腔年齢」という言葉は耳新しい。これは、歯と歯茎の健康状態を年齢に置き換えてわかりやすく示したもので、大阪歯科大学の神原正樹教授(口腔衛生学)が考案したものだ。肌の衰えを気にかけるように、口の中の年齢を意識することで、口腔の健康を保とうという試みである。

 口の中の年齢はどう計るのか。まず、虫歯や治療した痕跡のない健全な歯の本数を調べる。歯茎は歯周ポケット(歯と歯茎のすき間)が浅くて、出血や歯石が無い状態を健康とする。口の中の6ヵ所を調べて、これらの結果をパソコンソフトに入力すると、国が全国的に行っている歯科疾患実態調査や地域での歯周疾患調査データに基づいて、あなたの「口腔年齢」が算出されるという仕組みだ。

 実際、歯茎が赤く腫れて放っておいた38歳の男性が、口腔年齢・50歳と判定され、治療を決心したり、逆に60歳ながら口腔年齢・20歳と診断されるなど、インパクトはかなり大きい。

 特に注意しなくてはならないのが、歯茎の疾患である歯周病(歯肉炎、歯周炎)だ。歯肉が炎症を起こして出血や腫れを引き起こす歯肉炎と、歯を支える歯槽骨が破壊される歯周炎(世間で言う歯槽膿漏)は、自覚症状が少なく、気づかないまま進行することが多い。入れ歯が必要となる最大の原因が、この歯周病だ。成人の80%が罹患するといわれているから、決して他人事ではない。また、歯周病の原因である歯周病菌は、心臓疾患や糖尿病など全身の病気とも関連があるといわれており、侮れない存在だ。

 ただし、歯周病は適切な処置を行うことで改善するし、口腔年齢を維持することができる。これからは悪くなる前の予防と、治療後の状態を維持するメンテナンスが重要になってくる。歯の健康チェックやクリーニングで歯科医に通うことが常識の欧米各国の状況に、日本も早く追いつくべきだろう。