大量の情報を手に多くの選択肢を持つようになった消費者を相手に、またそのニーズに応えるために熾烈な戦いを繰り広げる競合を相手に、流通企業は絶えざる変革が求められる。近年の最重要課題は「オムニチャネル戦略」だ。その動きを加速するセブン&アイ・ホールディングスの村田紀敏社長が、「Oracle Industry Leadership Summit 2014~ 革新的ビジネスを構想から実践へ」の基調講演において、ビッグデータ時代のグループ戦略を語った。

ネットとリアルの融合戦略
池袋西武キレイステーション

「高齢化社会、女性の社会進出、eコマースやモバイルコマースはじめITの発展――。この先に、ネットとリアルが融合したマーケットが出てくるのは必然です。こうした大きな社会構造の変化に対応しチャレンジしていくのが、われわれの宿命です」

セブン&アイ・ホールディングス
代表取締役社長 兼 最高執行責任者COO
村田紀敏氏

 セブン&アイ・ホールディングス、村田紀敏社長のこの言葉は、流通ビッグデータの最重要課題であるオムニチャネル戦略に対する決意のほどを表している。

 実店舗とオンライン店舗の販売チャネルや流通チャネルを統合・再構築し、消費者がどのチャネルからでも同じように商品を購入し、商品を受け取れる環境を整えるオムニチャネル戦略において、すでにセブン&アイは具体的な実験を始めている。その1つが、池袋西武の「キレイステーション」だ。

 都心の女性たちの間で話題のキレイステーション。その人気の理由は、化粧品売り場の一角にカウンセリング専用コーナーを設けたことにある。通常、百貨店の化粧品コーナーはブランド(メーカー)別に配置され、一度にさまざまな化粧品を試すことができない。キレイステーションは、ブランドの枠を越えてカスタマイズされた「私だけのカウンセリング」で女性の心をつかんでいる。

 カウンセリングの予約はネットからも可能で、利用率は約60%。利用客は自分の肌に合う試供品を持ち帰り、気に入れば再度売り場に来て当該商品を購入する。その利用率は78%に上るという。驚くのは、リピート率の高さだ。利用客の約50%がオンライン店舗(eデパート)を利用し、うち約65%がセブン-イレブンで商品を受け取るという。

「キレイステーションを運用したことで、とても重要な知見を得ることができました。その1つは、多くのチャネルを用意することで、『ネットとリアルを行き来する』潜在ニーズを掘り起こせること。そして、お客さまは『あなただけのために』というパーソナルな提案を喜んでくださることです。セブン-イレブンは、国内に約1万6300店舗あり、来店客は1日約1950万人。このインフラは、こうしたオムニチャネル戦略を具体的に実践していく上で、たいへん大きな優位性を持っています」(村田社長)

 商品受け取り拠点としてのセブン-イレブン。これが、高い潜在能力を秘めている。その試みは米国でも着々と進められている。米・セブン-イレブン・インクでは、大手通販サイトAmazonで注文した商品を店舗で受け取れるサービスを開始した。店舗に「Amazonロッカー」を設置し、商品の受け渡しや返品をこのロッカーを通して行える。セブン-イレブンにとっては、ロッカーの賃料が収入源となる仕組みだ。

 国内では、ほかにも、そごう・西武の銘菓やeデパート(そごう・西武)の商品をセブン-イレブン店頭で受け取るサービスや、セブンネットショッピングで購入した商品をイトーヨーカドー店頭で受け取ったり、デニーズの実験店でネット座席予約をしたりといったサービスが始まっている。

「オムニチャネル戦略は、3つのステップを考えています。2015年度までのSTEP1は、グループの全商品を全国すべての店舗で受け取り可能にします。16年度までのSTEP2は、ネットを活用して店舗で便利に買い物ができるようにします。17年度までのSTEP3は、店舗をメディア化し、売り場を楽しい空間にします。いつでも、どこでも、誰でも、お客さまが我々のお店に接触し、そしてどの商品もシームレスに買い物をして、お届けする――そうした世界を我々は作り上げていきたいのです」(村田社長)