「部下にどう接するか」
上司は悩んでいる

 ビジネス環境が激しく変化し、新しい価値観が次々と入ってくる状況では、必ずしも過去の成功体験が役立たない場合があります。長年積み上げてきたノウハウが使えないということになれば、上司が自信を喪失してしまうこともあります。また、部下の労働意欲や勤務形態も多様化していて、部下指導のやり方も、従来とは大きく異なっています。

 これは世代にもよりますが、たとえば高度経済成長期やバブル絶頂期に成功体験を持つ人々は、メンタルモデルが変わらず、当時の体験からなかなか脱却できない場合が少なくありません。ビジネスの学習でもっとも難しいのが、自分自身の成功体験から抜け出す「アンラーニング」であるといわれます。

 実際、自分の学習体験を抜け出すために苦悶している上司がたくさんいるのも事実です。部下に対して、効果的な指導をしたいと思っていても、自分自身が過去の成功体験から抜け出せずにいるため、常に迷い、苦悩しながら部下と接しているのです。

 しかし、部下からすれば逆に、そうした上司は格好の教材であるともいえます。部下がそうした上司をコーチングアップすることで、上司との信頼関係を高め、自分自身の成長につなげることが可能になるのではないでしょうか。

 ここで上司が過去の成功体験を話し始めたときのことを考えてみてください。

 過去の栄光の日々に思いをはせるというのは、一種の現実逃避ということもできます。上司が過去の成功体験を話し始めたときは、自信をなくしているときである場合が多いのです。そんなときに、「そんな昔のやり方、今時通用しませんよ」などと言って責めたり、からかったりするのは、傷口に塩を塗っていることと同じです。

 もし、上司が過去の成功体験を話し始めたら、「ああ、今やっていることに自信がないんだな」と受け止め、上司に対する接し方を少しソフトにするのも、コーチングアップのひとつだといえます。

上司の気持ちになって
コミュニケーションを

 かつて、右肩上がりで成長していたようなときには、極端にいえば、上司が部下の指導をしなくても、厳しく「鬼」のようにノルマさえを守らせる指示をしていれば部下もついてきましたし、成績も上がっていました。

 ところが、近年の傾向は、まったく逆で、優秀な人から次々と会社を辞めてしまう傾向があります。また、同じ職場でも、正社員だけではなく、契約社員や派遣社員、嘱託社員など、異なる契約関係の人々が混在しています。あるいは、自分が入社したときには先輩や上司だった人が、自分の部下になっていることも珍しくありません。