人気番組『情熱大陸』(毎日放送製作毎週日曜日よる11時からTBS系列で放送)のプロデューサーは、“伝え方”をどう考えているか。58万部を超えたベストセラー『伝え方が9割』の佐々木圭一氏と、初めての著書『情熱の伝え方』が話題になっている『情熱大陸』のプロデューサー福岡元啓。二人の対談をお届けします。
(取材・構成/上阪徹 撮影/安達尊)

不器用で当初は本当に苦労した、という共通項

佐々木 福岡さんのご著書『情熱の伝え方』を拝読しました。とても勉強になりました。僕は、本を読むと気になるところにガシガシ線を引いて、ガシガシ折るんですが、こんなにたくさん線を引いて折り込んだのは、最近ないです。

テレビの取材現場で学んだのは「花束とナイフを両方持つ」でした<br />【佐々木圭一×福岡元啓】(前編)福岡元啓(ふくおか・もとひろ) 1974年東京都出身。早稲田大学法学部卒業後1998年毎日放送入社。ラジオ局ディレクターとして『MBSヤングタウン』を制作後、報道局へ配属。神戸支局・大阪府警サブキャップ等を担当、街頭募金の詐欺集団を追った「追跡!謎の募金集団」や、日本百貨店協会が物産展の基準作りをするきっかけとなった「北海道物産展の偽業者を暴く」特集がギャラクシー賞に選出され、『TBS報道特集』など制作の後、2006年東京支社へ転勤。2010年秋より『情熱大陸』5代目プロデューサーに就任し、東日本大震災直後のラジオパーソナリティを追った「小島慶子篇(2011年4月放送)」、番組初の生放送に挑戦した「石巻日日新聞篇(2011年9月放送)」でギャラクシー月間賞。水中表現家の「二木あい篇(2012年10月放送)」でドイツ・ワールドメディアフェスティバル金賞受賞。2014年「猪子寿之編」ニューヨークフェスティバル入賞。

福岡 (実際に折り込まれた本を見て)すごいですね。そんなふうに読んでくださって、ありがとうございます。

佐々木 福岡さんの体験が前半にあって、後半になると情熱大陸の制作の話や出演者の方から学ばれた話が出てきます。後半はもちろん僕にはすごく勉強になったんですが、前半を読んで思ったのは、「自分に似てるな」だったんです。僕自身の今までの体験に、です。

『情熱大陸』のプロデューサーになられるまでに、苦労というか、大変な思いをされているじゃないですか。それを赤裸々に書かれていて。マスコミ就職が全滅したこと、コミュニケーションがうまくできなかったこと、最初はぜんぜん仕事ができなくてダメダメだったこと、先輩にキレられて泣いてしまったり、命令で一年間、紺色の前掛けをさせられていたり、会社であだ名をつけられていたり。

 僕も、人と話すのが苦手で、それで理系に行ったんですよね。ロボットを勉強していて、技術者になるつもりでした。でも改めて人生を考えたときに、ロボットではなくて、やっぱり人とコミュニケーションできるようになりたい、と思ったんです。
 でも、社会人になってコピーライターになってから、本当にうまくいかなくて。コピーが全然、書けなかった。僕は書くコピーがどれも使い物にならず、紙の無駄遣いだということで「最も環境にやさしくないコピーライター」とあだ名がつきました。

 『情熱の伝え方』のエピソードに、報道部のとき、警察まわりをするくだりがあるじゃないですか。話をしたいけど、簡単には近寄れないし、会話はしてもらえない。だから、とにかく来る日も来る日も黙って道ばたで立ち続けていた、という話。これって、器用な人は絶対にやらないと思うんですよ。

福岡 そうでしょうね。器用だったら、そんなことをする必要もないでしょうから。

佐々木 だから、すごく共感して。僕はうまくコピーが書けなくて「どうしよう」と悩んで、あるとき思いついたことがあったんです。立ってコピーを書いたらどうか、と。これなら、寝ないで済む。立って書いたら、いいコピーが書けるわけではまったくないんですけどね(笑)。でも、なんとかしたかった。まわりから「なんで、お前は立っているんだ」と聞かれて、不器用な私は「いや、寝てしまうからです」なんて答えたりしていました(笑)。