4月に行われた医療費の改定から、はや3ヵ月。

 その間、本コラムの2月27日付け「4月から医療費が変わる! おくすり手帳は持つべきか、持たざるべきか?」という記事が、ツイッターなどのSNSで拡散され、予期せぬ出来事が起きた。

 筆者が、この記事で伝えたかったのは「おくすり手帳」の上手な活用法で、たんに医療費節約のテクニックだけではない。だが、「おくすり手帳を断れば、医療費の自己負担が20円安くなる」といった言葉が独り歩きし、調剤薬局でおくすり手帳を断る人が増えているという。

 多くの人に記事を読んでもらえるのはライター冥利に尽きるが、意図しない形で「おくすり手帳を断ろう」という風潮を作ってしまったのは少々残念だ。自ら筆の甘さを反省するとともに、今回は「おくすり手帳」誕生の歴史をたどり、改めてその意義を考えてみたい。

きっかけはソリブジン事件と
阪神淡路大震災の混乱だった

「おくすり手帳」は、患者が飲んでいる薬の情報を1冊の手帳にまとめて記録することで、飲み合わせによる健康被害を防ぐことが目的で作られたものだ。

 きっかけは、1993年11月に起きたソリブジン事件だ。抗がん剤を投与中の患者が帯状疱疹になり、その治療薬ソリブジンを服用したことで骨髄障害などの副作用を引き起こしたのだ。

 薬は、正しく使えば病気の回復を助けてくれるが、飲み合わせが悪いと薬の効果が薄れたり、副作用が強まったりして思わぬ健康被害を受けることがある。

 当時、がんの告知は一般的ではなく、患者自身も自分がどのような薬を服用しているのかを知らされていないケースもあった。そうした患者が帯状疱疹になって、別の病院や診療所を受診しても、医療者は患者の抗がん剤の使用を把握するのは難しい。そのため、本来なら避けるべきソリブジンが処方され、1ヵ月の間に複数の死者、重傷者を発生させるという痛ましい結果となった。