大手紳士服チェーン「しきがわ」を退職した高山昇は、レディースアパレルを複数展開する一部上場企業、グローバルモード社に転職する。高山は、社長の田村から直々に低迷する事業の立て直しを命じられる。しかも、その期限は半年――。果たして、高山は社長の期待に応えられるのか? 若き参謀、高山昇の奮闘ぶりを描く『経営参謀』が6月27日に発売になりました。本連載では、同書のプロローグと第1章を5回に分けてご紹介します。

市場を正しく理解することから始まる

 千葉ショッピングセンターでの研修の最終日の午後、高山は汐留の本社に立ち寄るように言われた。

 高山は会議室に通され、しばらくすると、田村社長と夏希常務が現れた。

「高山君。研修、ご苦労様だね」

 社長は席に着き、その横には夏希常務が座った。

「君はこの間、マーケティング調査を行いたいと言ったね」

「はい」

 高山の自信に満ちた答え方に、田村は軽くため息をついた。

「そんなものが本当に役に立つのかね? あのスティーブ・ジョブズも『マーケティングなど不要』と言っているじゃないか」

 高山自身も以前、マーケティング不要論を耳にしたことがあった。わかるような気もするが、そう言い切ってしまうと、なんだか収まりが悪いようにも感じていた。

「ぼくが前の会社でやったことを、少し話させてください」

 高山は話を始めた。

「自分がいた郊外型紳士服チェーンの『しきがわ』は当時、不振状態にあって突破口が全く見えていませんでした」

 田村は気むずかしげな表情で腕を組み、右手であご鬚を触りながら高山の話を黙って聞いていた。

「国内の至るところに出店して、一見飽和している市場なのですが、自分たちがお客様のことをわかっていないことに気が付いたんです。思い込みと惰性で、それでも毎日忙しがってビジネスをしているって。全ては、市場を正しく理解することから始まるのではないかと思いました」

 ふむ、と一言、田村は言った。

「そこで最初に、グループインタビューを行いました。お客様は何を考え、感じているのかを言葉にしてもらいました。そして、その後にインターネットで定量調査を行い、市場の全体像がわかるようにしました」

「つまり君は、質問さえすれば、お客様は自分の欲しいものを、答えてくれるものだと言うのかね? そんなこと、あるわけないだろうに」

 田村は鼻で笑い、腕を組んだ。