『フリーエージェント社会の到来(原題:Free Agent Nation)』初版がアメリカで刊行されたのは2001年のことです。著者のダニエル・ピンクは同書で、フリーエージェントが増えていく背景を調査・分析し、それがもたらす社会への影響を予測しました。それから10余年、この間に起こった実際の変化を、果たしてダニエル・ピンク氏はどのように見ているのでしょうか? 日本での新装版刊行を記念して、ピンク氏の思いを特別寄稿として寄せてもらいました。(訳:池村千秋)

いまやどこで働いているかに関係なく<br />誰もがフリーエージェントだダニエル・ピンク(Daniel H. Pink) 1964年生まれ。ノースウェスタン大学卒業、イェール大学ロースクール修了。米上院議員の経済政策担当補佐官を務めた後、クリントン政権下でロバート・ライシュ労働長官の補佐官兼スピーチライター、1995年〜97年までゴア副大統領の首席スピーチライター。フリーエージェント宣言後、ファストカンパニー誌やニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙をはじめ様々なメディアに、ビジネス、経済、社会、テクノロジーに関する記事や論文を執筆。本書をはじめ、『ハイ・コンセプト』(三笠書房)、『モチベーション3.0』、『人を動かす、新たな3原則』(以上、講談社)などの著書は34カ国語に翻訳され、世界中で200万部以上を売り上げている。2013年は世界のトップ思想家を選出する“Thinkers50”の13位に選出された。妻と子ども3人とともにワシントンD.C.在住。(写真:Eli Meier Kaplan)

 『フリーエージェント社会の到来』の初版が刊行された2001年、人びとの働き方と生き方に革命をもたらす現象が形をなしつつありました。

 ひとつは、インターネットの普及が急速に進んでいたこと。もうひとつは、企業で終身雇用や長期雇用が崩壊しはじめていたことです。このふたつの変化は、好むと好まざるとに関わらず、より多くの人を「組織に雇われない働き方」へ突き動かしていくだろうと、私は予想しました。

 しかし、その後に起きた変化は、私の予想を大きく越えたものでした。私が2001年に見いだした現象は、当時は想像もしなかったほど深まり、そして強まったのです。

 まず、テクノロジーについて考えてみましょう。

『フリーエージェント社会の到来』が最初に書店に並んだころ、アメリカでも日本でも、ほとんどの人はダイヤルアップ接続でインターネットを利用していました。それがいまや、自宅でも空港でもカフェでもブロードバンド接続ができる時代です。インターネットは電力並みに、いつでもどこでも使えるものになったのです。

 フリーエージェント社会の黎明期は、携帯電話が普及しはじめた時期でしたが、今日では、誰もがもっと高度なスマートフォンを持ち歩いています。しかも、いまのスマートフォンは、昔の携帯電話はおろか、2001年当時のデスクトップ・パソコンよりずっと高性能で、しかもずっと安く買えるようになりました。

 また、21世紀が幕を開けたころには、“ソーシャル・メディア”のアイデアすらまだ生まれていませんでした。ご存じのとおり、いまでは、LINEやツイッター、フェイスブックなどのソーシャル・メディアが私たちの生活に──ときにはビジネスにも──欠かせないものになっています。

私の予測はある意味では正しく
ある意味では間違っていた

 テクノロジーの発展により、個人が“生産手段”をもてば、組織に雇われずに働くことがいっそう容易になるだろうと、私は『フリーエージェント社会の到来』で書きました。それから10年あまり。この予測は、ある意味では正しく、ある意味では間違っていました。

 およその方向性は正しかったけれど、変化の激しさを大きく見誤っていたのです。テクノロジーの目覚ましい進歩のおかげで、フリーエージェントになるために越えなくてはならないハードルは、10年前に比べて驚くほど低くなりました。