乳幼児の原因不明の咳は両親を慌てさせる。救急医に駆け込むべきか、それとも市販の咳止め薬を飲ませるべきか…。先日、「JAMA小児科学」に一つの提案が載った。ペンシルベニア大学の研究グループの報告。

 同グループは、2007年に咳が原因で眠れない2~18歳の子ども105人を対象に、(1)蜂蜜、(2)蜂蜜風味の咳止め薬(真薬群)、(3)無治療の3グループで、比較調査を試みている。その結果、蜂蜜を舐めた子どもは咳が軽くなり眠れたのに対し、真薬群は無治療群以上に効果を示すことができなかったのだ。

 蜂蜜には抗菌作用や抗酸化作用がある。昔から上気道感染(咳や喉風邪)の治療に使われていたので、咳き込むたびに「蜂蜜大根」を飲ませてもらった記憶をお持ちの方もいるだろう。

 しかし、蜂蜜には乳児ボツリヌス中毒のリスクがあり、生後1歳未満の乳児には与えられない。そこで研究グループは、急性や夜間の咳症状に悩まされている生後2~47カ月齢の乳幼児を対象に、7日以内の急性・夜間の咳症状に絞って同様の研究を行った。今回はボツリヌス中毒のリスクがないとされる「リュウゼツランの樹液(3~5mL)」が使われている。

 子どもたちは、「ブドウ風味のリュウゼツランの樹液(リ群)」「ブドウ風味の水(プラセボ群)」「無治療群」に分けられた後、咳の頻度や重症度を記録。睡眠の質は次の日に評価している。

 その結果、リ群とプラセボ群は無治療群よりも有意に咳を和らげ、不眠を軽減したが、リ群とプラセボ群では差が認められなかった。また、1歳未満の乳児(30人)ではリ群の効果が高かった。

 乳幼児の咳は見ている両親の方が辛くなる。抗菌薬でも何でも使ってくれ、という気持ちになるだろう。しかし、乳幼児の急な咳の多くはウイルス性や非感染性のもので、焦った抗菌薬投与は不要。まず、ひとさじの「甘い偽薬」を用意し、落ち着いて「大丈夫だよ、すぐに治まるからね」と背中をさすりながら、ゆっくり飲ませよう。プラセボ効果は、愛と信頼があるほど上昇するのだから。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)