「あんなに研修を受けさせたのに、すぐに辞められてしまった……」
多くの企業が、離職率を下げようと日々努力していると思います。しかし、研修を受けさせたり、福利厚生をよくしたりしても、よい人材が定着しない、というのはよく聞く話。
『失敗は「そこ」からはじまる』でこの疑問に答えた、研究者にしてコンサルタントが、ディズニーが新人を使命に忠実で知識豊かな人材に変える手法に着目し、どうすれば会社と新人両者にとって「よい選択肢」を提示できるようになるか、解き明かします。

 御社の研修とディズニーの研修を分かつものとは?

 潜在的な報酬やインセンティブや選択肢のフレーミングは、その報酬などを手に入れようという意欲に影響を及ぼすが、普通私たちはこのようなフレーミングの効果に気づかない。どれぐらい頻繁に洗車するか、あるいは何時間仕事に費やしたいかなどについて明確な計画があったとしても、脱線してしまうことがある。もらえそうな報酬のフレーミングのせいで、意欲が高まったり落ち込んだりするからだ。

 この基本的な傾向は、さまざまな場面で私たちの行動に影響を及ぼす。キャンペーンやポイントサービスなどによって無料で製品をもらったりサービスを受けたりしたいという意欲から、特定の報酬を得る目的で課題に熱心に取り組もうという動機、多様な製品やサービスを購入しようという決定まで、影響を受ける範囲はじつに幅広い。課題のフレーミングで、別の興味深い影響が出ることもある。目の前の課題に対する熱意や、その課題に共感できる度合いが、フレーミングによって変えられるのだ。

 私も2010年の夏にウォルト・ディズニー・カンパニーの研究開発グループのコンサルタントを務めたとき、これと似たような体験をした。新入社員は「トラディション101(伝統入門講座)」と呼ばれる最初のトレーニングで、同社の文化や伝統だけでなく、ディズニーの生涯についてたっぷり教わるのだ。こういったオリエンテーションを通じて、企業は新人を自社の使命に忠実で知識豊かな人材に変える。

 実際、人が初めて何かの団体に加わるときに経験するオリエンテーションは、たいていその点に的を絞っていて、新人が組織そのものや組織に入ることで得られる利点を知る機会としてフレーミングされている。

 人はそれぞれ組織に入る動機は違っても、普通はみなうまく溶け込んで成果をあげたいと望んでいる。これは単純な計画に思える。それでも、オリエンテーションのフレーミングによって、熱心で生産性の高い働き手になろうという個人の計画が変わってしまうことがあるのだろうか? また、組織がよく使っているフレーミングのおかげで、新人は新しい役割に対してよりいっそう熱心になるだろうか、それとも、そうさせるにはもっと効果的なフレーミングの種類がほかにあるのだろうか? 直感的には当然あると思うかもしれないが、少なくとも私の考えでは、この問題は確かめる必要があった。