5大陸30都市に店舗を構えるNOBU。その料理の数々は言葉や文化の違いを超え、和食の感動を世界へ伝える。今、そのエクスペリエンスは絶えず拡がり続け、2013年4月にラスベガスにオープンしたNOBUホテルを皮切りに、マイアミ、シカゴ、フィリピン・マニラ、サウジアラビア・リヤドへとホテル事業は拡大を続けている。
こうした最高のNOBUのエクスペリエンスを演出するためには、テーブルウェアをはじめとしたクリエイティブなデザインが欠かせない。今回は、食器をはじめとした様々な商品開発を通し、NOBUの世界観をデザインするマツヒサ ジャパンの代表取締役・松久純子氏、福本亜紀子氏、そしてNOBU、Matsuhisaオーナーシェフの松久信幸氏による鼎談をお届けする。(取材・構成:森旭彦)

NOBUエクスペリエンスを支えるマツヒサ ジャパン

――「マツヒサ ジャパン」のミッションを教えて下さい。

ノブ 僕の夢は、世界中のお客さんがお皿を一目見ただけで「あ、これはNOBUだ!」と分かるようなデザインを生み出すこと。NOBUのエクスペリエンスが一瞬で世界中に伝わるような、そんなデザインを生み出すために私たちは「マツヒサ ジャパン」を運営しています。

こうしたデザインの思想は、世界中で店舗を持ちながらオリジナリティを出す上で、とても大切なことです。20年前は世界のあちこちに店舗を持っているシェフはそんなに多くなかった。しかし今は、違います。たとえば先日ディスカバリー・チャンネルの番組収録で一緒に旅をした、ジャン ジョルジュ・ヴォンゲリスティンというフレンチのシェフは、NYでミシュラン三ツ星を獲得しており、東京の「JG Tokyo」をはじめ世界中に42店舗を持っています。そして彼は世界中の店舗でデザインに統一性をもたせています。つまり、「ジャン ジョルジュとは何か」という体験を統一して設計し、オリジナリティを出すことに成功しているのです。

NOBUを一瞬で伝えるデザインはいかにして生まれるか[前編]<br />  ブラックコッドの西京焼き皿

福本 たとえばNOBUで使われている食器のひとつに、ブラックコッド(銀ダラ)の西京焼き皿があります。これはNOBUの料理がメディアに登場する時に「あ、NOBUだ」ということを伝えるアイコンのような存在になっていますね。料理はもちろんですが、こうした食器の体験も、結果としてNOBUのブランド価値を高めているのだと思います。私たちマツヒサ ジャパンは、様々な商品を開発しながら、現在ある70種類のオリジナル食器とともに、世界中に展開するNOBUとMatsuhisaをはじめとするレストランオープンの支援をするのが仕事です。

ノブ ユニークな商品として、最近、非常に硬度の高いワイングラスを取り扱っています。一般的なワイングラスは、テーブルに倒れるだけでほぼ100%割れてしまいます。しかしこの、クリスタルでコーティングされたワイングラス「Korin Glass」は、机の角に叩きつけても割れない。ニューヨークでNOBUをオープンさせた頃から付き合いのある食器屋さん「Korin」とマツヒサジャパンが共同で低価格化を実現したワイングラスです。
このワイングラスは、単価自体は決して安いものではありません。最初はリーデルよりも高かったのですが、僕たちは何万何千個という数を、5大陸30都市の店舗に展開したり、ホテルなどにも入れることができるため、コストを大幅に下げることができるのです。これがお互いにとって大きなメリットになるのです。

――まさに、マツヒサ ジャパンだからこそできる価値創造ですね。ホテルはやはりビッグビジネスのチャンスなんでしょうか。

福本 そうですね、現在はマニラのNOBUホテルにはすでに入っていて、サウジアラビアへも船が出港予定です。オープンに間に合わないことは許されないので、非常に緻密なオペレーションが求められます。モスクワにNOBUをオープンする際、ロシアではシベリア鉄道を使いました。

純子 中国には手持ちで持って行ったこともありましたよね(笑)。

福本 私たちは5大陸30都市以上の通関ができるノウハウを持っています。動き方はまさに商社ですね。