アジアのビジネス環境の変化が激しさを増している。すでに四半世紀を超える経験を持つ企業も、進出国の経済成長を背景に戦略などの見直しを進めなければならなくなった。そのためにはアジア全体を俯瞰し、ファイナンスなどの戦略も含めた総合的な対応策が、これまで以上に求められている。

事業の見直しと
再編に入ったアジア展開

 日本企業のアジア展開が新たな時代に入っている。「世界の生産工場」を演じてきた中国が最たる例だ。最近は人件費をはじめとするコストの上昇や円安、さらには日中間の政治対立などを背景に、製造業を中心に「チャイナ・プラス・ワン」の動きが加速している。

フロンティア・マネジメント 中国事業部長
中村 達

 経営支援とM&Aアドバイザリーを総合的に提供するフロンティア・マネジメント中国事業部長の中村達氏は、「中国では、投資環境の変化に適合しよう
と事業スキームの見直しを進める日系企業が増えてきています。一言で言ってしまえば、製造基地ではなく、マーケットとして見る動きの加速です」と解説する。

「チャイナ・プラス・ワン」の動きは、必然的にアセアン地域へと波紋が広がっていく。JETRO(日本貿易振興機構)の調査では、タイやマレーシア、インドネシアでも人件費などのコスト上昇、地場企業の台頭などの課題を抱えながら、タイやマレーシアでは現状維持か減少、インドネシアでは拡大といったさまざまな対応が明らかになっている。

フロンティア・マネジメント 専務執行役員
アセアン事業部長 兼
シンガポール支店長
村木徹太郎

 独立系ファームとしていち早くアセアンに進出し、30以上の提携先とのネットワークを持つフロンティア・マネジメントで、アセアン地域を統括する専務執行役員・アセアン事業部長兼シンガポール支店長の村木徹太郎氏は、「同じアセアンでも、1人当たりGDPの規模、宗教および文化が異なり、進出国に合わせた戦略が従来以上に求められます。それでもなお、人口6億人以上を擁するアセアンでの事業展開は、日本企業の今後の成長戦略には欠かせません」と解説する。

 こうした状況の変化は、日本本社に、より戦略的で高度な経営決断を突きつける。事業のあり方を見直すにしても、どのような視点で“診断”すべきかのノウハウは乏しい。「収益力が低下したから撤退すればよい」という単純な判断では、大市場の力を持続的な成長に結びつけていくことはできない。そもそも中国では会社清算に膨大なコストがかかる。では、持ち分譲渡やM&Aを含めた他社との新たなアライアンスの組成などが可能なのか。実態調査から実行スキームの立案、そして実行という一連の流れを実現するには、きわめて専門的で高度な知見が必要になる。アセアンでも事情は同じだ。

「外資優遇政策時代からの出資時と現在の環境変化により、合弁であれば出資者同士の経営に対する考えの差異、また過去のビジネスモデルのままで運営に支障が出始めているのに対応をしていない、といった事例が見えてきています」(中村氏)という中国の事情があれば、「主にシンガポールやマレーシアでは事業や会社を売却する動きがほかのアセアン諸国より多く、それらの企業や事業を、日本企業に対してどのように戦略的付加価値を付与しながら提案していくかがポイントではないか」(村木氏)という事情もある。