経済のグローバル化の進展に伴い、日本企業は激しい国際競争にさらされている。欧米のグローバル企業と伍していくには、財務戦略の強化が不可欠だ。日本企業に求められている資金・財務上の戦略について、みずほ銀行常務執行役員の星正幸氏に聞いた。

近年の日本企業の経営を取り巻く
環境変化について、どう見ていますか。 

みずほ銀行
常務執行役員
トランザクションユニット長
星 正幸

星(以下略):大企業中心だった海外進出が、中堅・中小企業にまで広がっています。特にアジアへの進出が増え、中国以外にもベトナムやタイ、カンボジアなどへ広がり、「チャイナ・プラス・ワン」と呼ばれます。従来は製造拠点としてのアジア進出が多かったのですが、最近ではアジアを有望な消費市場として進出する企業も増えています。円安が進んでも、流れは大きく変わらないでしょう。

 一方、アジアを重要な地域としてとらえているのは欧米先進国の企業も同様です。近年は、中国、韓国、台湾などのアジア新興国の企業も急速に力をつけてきており、競争は激しさを増しています。

日本企業は欧米のグローバル企業と比べて
財務戦略が弱いとの指摘もありますが。 

 大規模な製造業を中心に財務部門の強化は進んでいます。一方、中堅・中小企業のなかには、コスト面や人材確保などの点で遅れが見られたのも事実です。ただ、潮目は変わりつつあります。海外進出の手法としてM&Aが活発化するなかで、買収先企業の優れた資金・財務管理の仕組みをうまく活用しようとする動きもあります。

日本企業が国際的な競争力を高めるために
必要な資金・財務上の戦略は何ですか。

 「キャッシュ・マネジメント」「為替リスク管理」「サプライチェーン・ファイナンス」(SCF)の3つが挙げられます。キャッシュ・マネジメントは、資金の「見える化」を進めることによってガバナンスの強化を図るもの。グループ内の資金効率を高めることで経営資源の有効活用が可能になります。日本企業が数多く進出しているアジア諸国は、国ごとに通貨が異なるだけでなく、通貨の規制も厳しく、ボラティリティが大きい通貨もあるため、為替リスク管理は企業規模を問わず重要な経営課題です。

 そしてSCFは、バイヤーの信用力でサプライヤーが資金調達できるようにする手法です。海外に進出し、現地で安定したサプライチェーンを構築したいと考えているバイヤーと、技術力はあるが資金調達力が相対的に弱い現地のサプライヤー、双方に有効な手法です。

 日本企業はものづくりを武器に海外に進出してきましたが、これまでのプロダクト・アウト思考ではなく、進出する地域に合わせたマーケット・インの考え方が必要であるといわれており、事業戦略の再点検が必要な時期に来ていると感じます。また一方で、グローバルな視点の資金・財務戦略も欠かせません。双方に目を配る必要があります。