ロードサイドに展開する大型店舗や物流倉庫。これらの多くは「システム建築」と呼ばれる工業製品が用いられている。システム建築は施主に、どのような利益をもたらすのだろうか。

 コンピュータ制御された自動化ラインから次々と生み出される工業製品。その代表的な製品は自動車だが、実は大型店舗や物流倉庫、スポーツ施設、さらには工業製品を生産する工場そのものも、システム建築工場で生産されている。さすがに丸ごと1棟を出荷することはなく、工場では建物を支える鉄骨の柱や梁、屋根、外壁、扉などの建具といった建物を構成する主要部材を生産する。部材は標準化・規格化されているため生産効率が高く、コンピュータやロボットなど最新技術を駆使して生産するので精度が高く、品質も均一である。これら部材を事前に製作しておいたり、基礎工事の間に生産することができるので、在来工法に比べて工期が短縮できる。

建築の一連の流れを
システム化した商品

建築家・プロダクトデザイナー
黒川雅之氏

1937年生まれ。建築設計から工業化建築、 プロダクトデザイン、インテリアデザインと幅広い領域を総合的、有機的に捉える立場を一貫して取り続ける。作品は国内外で高い評価を受け、「GOMシリーズ」はニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定されている。代表作に、千葉ポートパークの野外劇場、パロマ本社他、水栓金具「Kシリーズ」(TOTO)、ドアノブ「INTERFACEシリーズ」(美和ロック)など多数。

 しかし「工場で生産する」ことはシステム建築の一面でしかない。システム建築を初期から知る建築家の黒川雅之氏は「システム建築とは部材・部品単位ではなく、受注・設計・施工という建物の完成までの流れをシステムとして捉えて標準化した商品です」と説く。

 建物の完成までの流れを(1)営業→(2)設計→(3)工場生産→(4)施工に分けると、システム建築では次のような段階を踏む。

 (1)営業段階では、担当者が施主に対し完成した建物の様子をカタログなどで分かりやすく示すことができるので、両者の間に齟齬が生じにくい。標準建物であれば概略設計や見積もりがすぐに出せる。

 (2)設計段階では、CAD/CAM(コンピュータで図面を作成し、工作機械の加工プログラムを作成するソフトウエア)を用いて、データベースに蓄積された情報を利用し、合理的で経済的な設計を行う。ゼロからの設計ではないので、設計期間を短縮できる。

 (3)工場生産段階では、CAD/CAMデータに基づいて自動化されたラインで精巧で高品質な部材を生産する。

 (4)施工段階では、省力化された標準的な施工手順に従って組み立てることができるため、熟練工でなくても短工期で高品質の建物が完成する。また基礎についても掘削土量を少なくしつつ強度を保つ工夫を凝らしており、地震・強風・積雪に対しても強い。施工期間は在来工法より2~3割程度も短縮できるので、建築中に生じる機会損失を最小限にとどめることができる。