残業を断る「タダ乗り社員」、断れない「生まじめ社員」 それは、ある日の午後7時。久々に仕事を早く終えたA君は、パソコンの電源を落としながらほっと深い息をついた。なにしろ、この3週間というもの徹夜に継ぐ徹夜が続いていたのだ。その仕事が、ようやく今夜終わった。はっきりいってクタクタだ。

 すぐ家に帰って風呂に入り、ビールをあおろう。ちょっとまてよ、その前にレンタルビデオ屋に寄って、前から観たかった新作DVDを借りてもいいな。胸を弾ませながら帰り支度をしていると、とつぜん部長のこんな声が聴こえてきた。

 「おいおい、まずいな。また、発注ミスか。大急ぎで仕入先から調達してこないといけないな。だけど、もう時間がないから、誰か直接行かないとなあ。おーい、B君。悪いけど行ってきてくれんかな」

 すると、B君がこんなふうに即答するのが耳に入った。「あっ、ダメ!オレ、今日はダメっす。これから野暮用がありますんで。ほんと、すいません!」「なんだ、しょうがないヤツだなあ。えーと、それじゃ、A君!」

 A君はしかたなく振り返った。「あ、はい…」「悪いけどキミ、ちょっと行ってきて。少し遠いから往復で2時間くらいかかっちゃうけど」「あ、大丈夫です…」「今晩なんか用あった?」「い、いいえ。何にもありません」「そうかい。そりゃよかった。じゃあよろしく」

「タダ乗り社員」の
尻拭いをさせられて・・・

 冒頭のケースでもわかるように、ビジネスマンにも、残業を断るのがうまい人と下手な人がいる。B君のように、自分の事情や気持ちを躊躇せず周りにぶつけられる人間はストレスをためこまずにすむ。上司の心証はよくないかもしれないが、本人はあまりそれを気にしていないようだ。そんな天真爛漫さが受けるのか、「憎めないヤツ」と一部の先輩から可愛がられたりする。

 最近はとくにB君のようなタイプが増えてきた。個人の仕事の範囲が明確ではない日本の職場では、他人に仕事を任せて自分はラクをする「タダ乗り」も可能だ。上司に「その仕事は私がやらなきゃいけないんですか?」などと言い放つ若手もよく見受けられる。

 彼らのとばっちりを喰らっているのが、A君のようなタイプだ。責任感が強く、声も小さい彼らは、「タダ乗り」する社員の尻拭いを一手に引き受けなければならない。しかもこの頃は組織のフラット化も進み、管理職はひとりひとりの仕事の量をマネジメントしてくれなくなっている。おかげでいつのまにか仕事が増え、あれもこれも自分の担当…ということになってしまうのだ。だが、このまま疲労を募らせると、心身に異変をきたさないだろうか――。