価値は労働量で決まるという労働価値説を打ち出した古典派経済学に対し、価値は効用で決まる、と新たな効用価値説を唱えたのが新古典派です。しかも、この効用価値説は、3人の学者がほぼ同時に別々の場所で唱えたのでした。この新古典派の支柱と言える理論について今回は説明していきます。

「価値は効用で決まる」効用価値説の登場

 価値(価格)は労働量で決まる、と労働価値説を打ち出したのが古典派経済学でした。労働価値説はマルクス経済学でも受け継がれましたね。この古典派の命題に対し、価値(価格)は効用で決まると、効用価値説を唱えたのが新古典派です。次の3人がそれぞれ別の場所で、ほぼ同時に効用価値説を唱えました。

・ウィリアム・ジェヴォンズ(1835-82)ロンドン大学…→ケンブリッジ学派
・レオン・ワルラス(1834-1910)ローザンヌ大学→ローザンヌ学派
・カール・メンガー(1840-1921)ウィーン大学→オーストリア学派(ウィーン学派)

 効用とは、英語のユーティリティ(Utility)で、個人の満足の度合い(満足度)、欲望の強さ、幸福度のことです。「人は効用を最大化させるように行動する」と仮定します。欲望を最大化させるのが合理的な人間だというわけです。満足度がモノやサービスの価値(価格)を決定している、と考えた。

 アダム・スミスに影響を与えたジェレミ・ベンサムの功利主義は英語でユーティリタリアニズム(Utilitarianism)です。語源は効用と同じだね。ベンサムは、最大多数の最大幸福が政策の目的である、としました。重商主義の時代は王家の最大幸福を目指したわけだから大きな違いです。

 最大幸福を計量するには、幸福の数量化が必要になるでしょ。効用価値説の背景にはこのような功利主義の影響があります。

受講者 限界ってどういう意味ですか。限界効用というと、最終的な満足度かな。

 そのとおり。ジェヴォンズは「最終効用度」と書いていました。限界効用の「限界」は英語のリミット(Limit)ではなくマージナル(Marginal)のことで、この場合は「辺境・端っこ」という意味です。モノやサービスを1単位追加すると、効用=満足度がどのように変化するか、というのが限界効用の考え方で、グラフ上でみると満足度の増加分は上の端っこ部分を指す。

 3人は限界効用の考え方を導入し、物やサービスを1単位追加していくたびに満足度(限界効用)は減少(逓減)していく、という限界効用逓減の法則を導きました。

 たとえば、お腹が減っているときにカツ丼の1杯目を食べた時は非常に美味しく感じます。効用は最大です。でも、おかわりして何杯も食べていくと、どんどん1杯当たりの満足度は2杯目、3杯目と下がっていきますよね。

 限界効用が逓減していくということは、同等の質の物やサービスであっても、それを受ける人間にとっての価値(満足度)が下がっていくことを意味します。カツ丼を提供する労働量が同じでも、効用が下がれば価値(価格)も下がる。彼らが労働価値説を否定する理由はここにあります。

 これは、物やサービスの価値の考え方に関する大きな転機といってもいいでしょう。