<物語>
全国に1000店舗を超える外食チェーン「K’s・キッチン」を展開する経営者(中川昌一郎)の娘・あすみは、幼い頃から「将来は父の跡を継ぎたい」との思いを抱いていた。そんなあすみが大学1年生になったとき、昌一郎から「大学4年間をかけて入社試験を行う」と告げられる。試験内容は、昌一郎のもとに寄せられた業績不振の飲食店からの経営上の悩みを、問題を抱えたお店で実際に働きながら解決する、というもの。やがて、あすみと意気投合した親友のはるか(昌一郎とは友達感覚の間柄)も一緒になって、業績不振店の改善に取り組み始める。小さな箱の中に「製造、流通、販売、PR、マーケティング、マネジメント、サービス」などのビジネス要素が詰まった飲食店の中で、人間関係の複雑さや仕事の難しさにぶつかりながら、2人はそれぞれのお店の再生に立ち向かう。

シンプルに考える

 昌一郎は少しもったいぶったように間を開け、一呼吸置いてまた語り始めた。

「私はね、君たちが好きなこの会社を伸ばすこと、それで全てが叶えられるのではないかと思うんだ。
 例えば、会社の規模が大きくなれば当然、払える報酬の絶対額が増える。そうなれば、どんどん新しいポジションができて、今まで兼任していた仕事が独立した部署になったりもする。
 さらに、本部が出来て、今まで現場仕事しかなかった者が幹部となって会社を動かし、後から入ってくる若い力がどんどん現場を活性化していくこともできる。なおやる気のある者は、人生をかけて独立したっていい。
 どうだ? 未来が広がると思わないか? みんなの努力でそんな未来を掴み取りたいと思わないか? 大好きな会社で大好きな社長と一緒に」
 昌一郎の言葉に全員が深呼吸して大きく頷いた。

「ここまではいいかな? さぁ、そこでだ。ここからはみんなで話し合ってもらいたい。1年後の自分たちのあるべき姿についてだ。
 今のままでいいのかい? 違うよな? 今、みんなはこれから高い山に登ろうということを決めた。何のために登るかもわかった。では次は、登るべき山を決めなくてはならない。
 山に登りたいが、登るべき山がどんな山なのかわからないでは何をしていいか迷ってしまう。装備もロードマップも、全ては登るべき山があるからこそ、その山を登るために必要なものをまず揃えるんだ。そして最適なパーティを組んで、最短のルートを決めて、登り始めるんだ。
 もちろん、ここまで行ったら、再装備、ルートの再検討というのも随時やりながらになるがな。
 で、まず君たちに必要なのは、ここから1年かけて登る山選びだ。これをどの山にするのか話し合って欲しい。具体的に店舗数でも売上高でもどちらでもいい。自分たちが目標とする山を決めてほしい。ここからは、君たちが決めるんだ。社長も抜きで決めるんだ。
 さあ、部長の木全(きまた)君、君の主導で会議を進めなさい」

「はい、分かりました。やってみます。今の中川社長のお話を聞いて理解できたと思うから率直に聞くけど、みんなどうする? っていうか、どうしたい?」
 木全がみんなに話しかけた。こうして30分後一つの方向性が決まった。

「では木全君、1年後のあるべき姿を教えてくれないか?」
「はい、既存店の売上水準を最低、今の状態の20%アップにした上で、新しいお店を2店舗、出店させたいです。来年の今頃にはこのような状況を作ります」

「なるほど、いいんじゃないか。それが来年のみんなのあるべき姿だと。では、今とのギャップを埋めていこう。この山に登るためには何が足りないのか、どうすれば登れるのか、装備やルートをどうするかを出していくんだ。これがギャップを埋めるという考え方だ。
 つまり、現状とあるべき姿には明確なギャップがあるからこそ、それを埋めるべき方法、すなわちアクションプラン・行動計画というものを立てる必要がある。あとはその行動計画どおりに実行すればギャップが埋まり、あるべき姿に到達するということだ。わかるかな?」

「はい、理解できます。シンプルですね」
 木全は少し驚いたような表情で目を丸くした。
「物事は複雑怪奇に見えるが、じつは全てシンプルなんだ。というよりもシンプルに考える癖をつければいい。特に物事を教える側の人はシンプルでなくては部下に伝わらないよ。わかるかな?」
 木全は納得したような表情で明るく微笑んだ。