すべての仕事は事実から始まる ― この事実をきちんととらえていないためにロジカルな思考を展開できず、コミュニケーションのトラブルを起こしているケースは少なくありません。新刊『外資系コンサルの3STEP思考術』の著者の森秀明が、同書のエッセンスとともに紹介します。

 円滑なコミュニケーションは、事実を正確に相手に伝えること、そして、自分の持っている事実と相手の持っている事実を正しく“すり合わせる”こととも言えます。

 ですから、まずは事実とはどういうものなのか、事実を伝えるとはどういうことか、をしっかり押さえることが大切です。

 事実は、目的を持って選ばれた法則や事例、情報やデータのことです。往々にしてそれらは、混沌としてバラバラな状態でありがちです。そして、その事実を相手に正しく伝えるコミュニケーションを行うためには、整理、分解、比較の3つの基本スキルが必要になります。この3つのスキルを正しい方法で自由に活用できるようになれば、コミュニケーション上のトラブルは激減しますし、仕事で成果を上げることもできます。

 整理、分解、比較について、それぞれ簡単に説明します。

「整理」とは?
 整理とは、「事実を1つ1つのかたまりとしてとらえる」ことです。
「事実」を「かたまり」の集合と考えて、それぞれのかたまりがどのくらいの大きさで、どのような内容なのかを正確に把握することが、整理の定義です。具体的に見ていきましょう。

 たとえば、「自社製品Aの拡販策」ということで考えた場合、「既存の販売ルートではAの売上げは頭打ちだ」という課題は事実ですし、「B社とのコラボイベント開催で集客と商品認知を図る」という計画も事実で、「総費用は300万円」という概算データも事実です。

 また、事実には大きいものもあれば小さいものもあり、その大きさはさまざまです。たとえば、「自社製品Aの拡販策」は1つの事実ですが、それは、会社全体の「今後3年間の事業戦略」という大きな事実の中にあります。それでも、「自社製品Aの拡販策」と「今後3年間の事業戦略」は、どちらも1つの事実であることに変わりありません。

 つまり、オモチャの散らかった部屋で、それぞれのオモチャを1つずつ、大きさに合わせて箱に入れて片付けるように、漠然とたくさん存在している事実を、かたまりごとにとらえることが整理です。これが事実と整理の関係です。ちなみに、事実は、小さなものを複数束ねたときに、1つの大きな事実として認識できます。

「分解」とは?
 分解とは、「大きなかたまりを小さく分ける」ことです。ある考えに従って「事実」を小さくグループ分けしていくこと、とも言い換えられます。
分解の反対は統合です。つまり、大きな事実を小さく分けていく=分解していくと、小さな事実がいくつもできます。反対に、その小さな事実をまとめていく=統合していくと、大きな事実に復元できます。このような関係が、事実の分解と統合には成り立ちます。

 たとえば、「ビジネスパーソンを対象にした新製品のマーケティング」について考える場合、「総所得額」という切り口で考えるのも分解の仕方の1つです。このとき、「年収500万円未満」「年収500万円以上、700万円未満」「年収700万円以上、1000万円未満」「年収1000 万円以上」というように、対象者が必ずどこかの枠に含まれるが、枠をまたがって含まれることはないようにグループ分けすることが、分解のルールです。事実を分解するときには、「モレなくダブリなく」という考え方が鉄則です。

「比較」とは?
 比較とは、「かたまり同士を並べて比べる」ことです。細かさのレベルが同等の、いわゆる粒度が同じ事実同士を比べることを言います。
たとえば、A社とB社という2つの会社の利益という事実を比べるのであれば、「A社の営業利益」と「B社の営業利益」を並べて比べます。ここで、「A社の営業利益」と「B社の最終利益」を比べても、それは正しい比較とは言えません。

 あくまでも、粒度が同じものを並べて比べることが肝要です。比較が持つ重要な意味は、2つの事実の間のギャップにメッセージが浮かび上がってくることです。たとえば、A社の社内で「売上げの状況」について比較するとします。「現在の売上げの状況」が1億円で、「3年後の売上げの状況(目標)」が3億円だった場合、両者の間には2億円のギャップがあることがわかります。そのギャップをどうやって埋めたらいいか、ということがメッセージになります。そこから、新事業の立ち上げや成長事業への資源投入といった、何らかの施策や戦略を提案することになります。これが事実と比較の関係です。

このように考えると、世の中のすべての仕事は、事実の正しい認識と、整理、分解、比較の3つのスキルで成り立っていることが、明確に見えてくるはずです。そして、バラバラだった事実を1つ1つかたまりとしてとらえて、グループに分けたり並べ直したりしながら比べることで、新しい戦略や施策、行動といった解に近づけていくわけです。